「いずも型」護衛艦、F-35を載せた自衛隊初の空母

自衛隊のヘリ空母 自衛隊
この記事は約5分で読めます。

海自最大の船は悲願の空母へ

帝国海軍の末裔である海上自衛隊は、長年にわたって空母建造構想を抱いてきましたが、2000年代には初の全通甲板式の護衛艦で、事実上のヘリ空母「ひゅうが型」を登場させます。

そして、これをさらに大型化、発展させたヘリ空母「いずも」「かが」の2隻が続いて建造されました。

今やイージス艦と並んで海自の顔となった「いずも型」は海自最大の艦艇であるとともに、改修によって固定翼機の運用能力を獲得した正式な「空母」となったことで自衛隊の歴史にその名を刻みました。

⚪︎基本性能:「いずも型」護衛艦(改修前)

排水量  基 準:19,950t
満載時:26,000t
全 長 248m
全 幅 38m
速 力 30ノット(時速55.6km)
航続距離 約20,000km
乗 員 470名
兵 装 20mm CIWS×2
SeaRAM防空システム×2
魚雷防御装置         
艦載機 SH-60K哨戒ヘリ× 7
MCH-101輸送救難ヘリ× 2
※最大搭載数は14機
建造費 1隻あたり約1,100億円

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いずも型」護衛艦は全長約250mという巨大な艦体が特徴的ですが、これは真珠湾攻撃とミッドウェー海戦にも参加した旧海軍の正規空母「蒼龍」よりも大きいほど。

その広大な飛行甲板には、5つのヘリコプター・スポットが設けられているため、同時運用能力も5機になります。

艦全体では最大14機のヘリコプターを搭載できるうえ、整備用格納庫と航空管制機能も備えた「海に浮かぶ航空基地」です。これら艦載機で周辺海域を常に警戒できる「いずも型」は、海自の対潜哨戒能力を飛躍的に向上させました。

ヘリ5機を同時運用可能な「いずも型」護衛艦(出典:海上自衛隊)

こうした高い航空運用能力を持つ反面、巨大な船体がもたらす機動性の限界を考慮して戦闘への直接参加は想定してません。戦闘行動時は護衛艦艇の随伴を前提としており、兵装も最低限の自衛機能に抑えられました。

その代わり、艦隊旗艦としての通信設備や戦闘指揮システムを拡充させて、従来とは比べものにならないほど司令部機能が強化されました。

ほかにも、大型トラック50台と人員400名の輸送能力、汎用護衛艦3隻分の洋上補給能力、そして集中治療室や手術室を含む35床の病室を備えているなど、船体の大きさをフル活用した多目的機能を獲得しました。

外国艦艇に対する洋上補給(出典:海上自衛隊)

こうしたマルチ能力のおかげで「いずも型」はミニ・強襲揚陸艦として活動できるうえ、状況次第では格納庫に野戦病院を設置した小規模病院船にもなります。

戦闘機運用に向けた改修と課題

海自初の空母として改修されたものの、空母化の噂は就役前からささやかれ、特に格納庫と飛行甲板を結ぶエレベーターがF-35Bステルス戦闘機を載せられる大きさだった点がさまざまな憶測を呼びました。

先に登場したヘリ空母「ひゅうが型」が明らかに軽空母保有への布石とみなされたことから、ヘリ空母として一旦建造した後、国内世論と周辺国の反応を見ながら、どこかのタイミングで改修するつもりだったのでしょう。

しかし、中国海軍の急増勢によって空母化は当初計画よりも前倒しとなり、就役からわずか3年後にはF-35B搭載に向けた改修が決定されました。

そして、このように正式に空母となった「いずも型」は、主に4つの改修を受けました。

(1)F-35B戦闘機の排熱を想定したた甲板の耐熱強化
(2)誘導灯の設置(夜間時の着艦に必要)
(3)艦首を台形から四角形に変更
(4)艦内区画の見直し(空母運用に適した配置の確保)

まず、艦首の重量が増えて全体のバランスが悪くなる理由から、マンガ「空母いぶき」でみられるようなスキージャンプ台は設置されません。

イギリスの空母「クイーン・エリザベス」でも採用されたスキージャンプ台は航空機の発艦を補助できる一方、その面積分だけ駐機スペースが減るため、「いずも型」では採用せず、艦首を四角形に作り直して滑走距離と駐機スペースの両立を図ったのです。

ほぼ同じ全長と四角形艦首を持ち、スキージャンプ台を採用しなかった米海軍の「アメリカ級」強襲揚陸艦が同じF-35Bを運用している点を考えると、同盟国アメリカから空母のノウハウを学ぶ海自が同国の強襲揚陸艦を参考にしたと推測されます。

四角い艦首となった「かが」(出典:海上自衛隊・第4護衛隊群)

これら空母化改修は2025年には完了する見込みで、計42機が調達される艦載機のF-35Bは2024年から宮崎県・新田原基地への配備が始まります。

また、気になるF-35Bの搭載機数については、単に載せるだけならば最大15機まで可能ですが、戦闘機以外にも哨戒ヘリも搭載せねばならず、任務によって艦載機の内訳と機数は変わるもの。

さらに、水上艦のレーダーでは水平線の先を探知するのは難しく、早期警戒機による支援が必要なため、アメリカの原子力空母は固定翼機のE-2警戒機を、イギリスの「クイーン・エリザベス」は早期警戒ヘリを搭載しています。

ところが、「いずも型」は早期警戒機に関する話が出ておらず、具体的にどうするのかは不明なままです。よって、現時点では以下の可能性が考えられます。

(1)陸上基地から飛来する空自の早期警戒管制機に頼る
(2)イギリス空母と同様に早期警戒ヘリを導入
(3)V-22オスプレイの早期警戒型「EV-22」を導入


余談ですが、「空母いぶき」では艦載型の早期警戒機は見られず、(1)のように空自に頼っていたと思われます。

現代戦で勝敗を分ける早期警戒能力に冗長性を持たせるうえでも、やはり自前の早期警戒機は必要ですが、EV-22は開発すら始まっておらず(おそらく断念・白紙化)、現時点では早期警戒ヘリが最も現実的です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました