失敗でも欠陥でもない海上自衛隊・P-1哨戒機

自衛隊のP1哨戒機 自衛隊
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傑作機を継ぐ国産哨戒機

海上自衛隊の重要な任務のひとつに「哨戒」というものがあります。これはいわゆる「パトロール」であり、四方を広大な海に囲まれた日本にとって、航空機による上空からの警戒監視は欠かせません。

よって、海自は優れた対潜能力を持つP-3Cオライオン哨戒機を数十年前から運用していますが、老朽化にともなって国産のP-1哨戒機を後継として登場させました。

⚪︎基本性能:P-1哨戒機

全 長 38m
全 幅 35.4m
全 高 12.1m
速 度 時速996km
航続距離 8,000km
高 度 13,520m
乗 員 11名
兵 装 対潜爆弾、魚雷
対艦・対地ミサイル×8
価 格 1機あたり約200億円

P-1は防衛省技術研究本部と川崎重工業が開発した機体で、空自が運用するC-2輸送機と同時開発されたのでP-1とC-2は部品の25%を共通化してコスト削減に努めました。

P-1の開発を巡っては国産派と海外輸入派が対立しましたが、前回のP-3C導入時も同様の状況が発生しており、この時は国産派が敗れたことから今回はリベンジを果たした形になりました。

ちなみに、今回のP-1導入にあたって海外輸入派が推したのがアメリカのP-8ポセイドン哨戒機でした。

開発は2000年から始まり、2013年に部隊配備までこぎつけましたが、途中の耐久試験で部品や機体そのものにヒビが入る問題が起きたことから、似た問題を抱えていたC−2とともに一時は「失敗作」「欠陥」との評価が相次ぎました。

しかし、その後は改修を通じて強度不足を解消しており、現在は大きなトラブルもなく普段の任務に就いています。

哨戒能力の進化、攻撃力の強化

従来のP-3Cがレシプロ機(プロペラ機)だったのに対して、P-1は4発のジェットエンジンを搭載して速度や航続距離を向上させつつ、探知を避けるうえで重要な静粛性まで改善しました。

哨戒機は潜水艦の追跡や広大な海を監視するための長時間飛行が求められますが、P-1の連続滞空時間は10時間以上と言われていて、機内には休憩スペースやP-3Cでは干渉のリスクで使えなかった電子レンジが設置されるなど、長時間任務に備えた乗員の快適性も意識されました。

また、P-1はフライ・バイ・ライトと呼ばれる光ファイバーを用いた飛行システムを搭載したおかげで、操縦アシスト機能が強化されたのみならず、従来型よりも電磁波妨害に強くなりました。光ファイバーは断線したときの修理が難しいというデメリットはあるものの、操縦性はP-3Cよりも格段によくなったそうです。

哨戒任務に就くP-1(出典:海上自衛隊)

さて、哨戒能力についてですが、P-1は新型の光学・赤外線探査装置、機体前方240度をカバーするAESAレーダーを使って洋上監視を行います。これらのおかげで遠距離・高高度からも小さな目標を発見できるため、P-3Cよりも小型船舶への対応能力が向上しました。

そして、対潜哨戒では音響探知装置や機体尾部から伸びた磁気探知機(MAD)を使って海中の潜水艦を探しつつ、同じく潜水艦探知用の「ソノブイ」を機体下部にある38個の発射口から投下可能です。対潜哨戒に欠かせない装備のひとつであるこのソノブイですが、P-3Cが飛行中に3つしか再装填できなかったのに対して、P-1では全て機内から再装填可能となりました。

こうしたソノブイやセンサーで集めた内容は、情報処理装置によって一元的に分析・識別されるほか、付近にいる護衛艦と一部の航空機に共有できます。

武装面では対潜用の魚雷と爆弾に加えて、対艦・対地ミサイルを最大8発も搭載できるようになり、単純計算ではあのF-2戦闘機の倍近い対艦ミサイルを撃てます。しかし、対地攻撃に使う「マーベリック・ミサイル」は射程が30km程度と短く、撃墜される危険を冒しながら目標に接近せねばなりません。

方針転換で最終調達数は削減?

対潜探知能力をさらに高めたうえ、AI技術を使った新型識別システムを搭載した「能力向上型」も登場済みのP-1哨戒機は、最終的に70機ほどの調達が予定されていました。

しかし、防衛省が2022年末に発表した自衛隊全体の改革案では、P-1の配備数を将来的に削減して、一部を無人機シーガーディアンで代替する方針を掲げました。これには部品共通化で開発コストを抑えたとはいえ、1機あたり約200億円という値段が影響しているのでしょう。

量産コストの削減を狙って、P-1は国際的な航空ショーや展示会に参加して海外輸出を目指したものの、輸出実績のない日本製装備は太刀打ちできず、P-1哨戒機に興味を示した国も最終的にはアメリカのP-8ポセイドンを選びました。

とはいえ、P-1自体がなくなる可能性は低く、有人哨戒機の必要性が消えたわけでもありません。むしろ、2040年代を見据えた次期哨戒機の話が出ていて、川崎重工業がすでに開発検討を始めたそうです。

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