基地と軍事力の交換
1951年の締結以来、日本の安全保障はアメリカとの軍事同盟に頼り、いまも外交・防衛における根幹です。自衛隊が世界有数の戦力を誇るとはいえ、その防衛計画は米軍の支援・助力を前提にしており、日本の防衛は日米同盟なしでは成立しません。
では、この同盟は一体どのような内容なのか?
まず、歴史をさかのぼれば、日本は敗戦後にアメリカ主体の占領を受けながら、1951年のサンフランシスコ平和条約をもって、主権国家として独立を回復しました。
ところが、すでに朝鮮戦争が始まり、ソ連などの共産主義陣営の脅威が高まるなか、当時は警察予備隊(自衛隊の前身組織)しかなく、自国を守れる武力さえありませんでした。
一定の再軍備は目指すものの、軍隊の再建は経済的負担が大きいうえ、日本軍の復活を懸念する国内外の反発がありました。それゆえ、本格的な再軍備でも、非武装中立でもなく、第3の道を選びました。
それは米軍に引き続き守ってもらうべく、アメリカと安全保障条約を結び、基地の提供と軍事的な保護を交換するものでした。いわば、土地と労働力を提供する代わりに、アメリカの軍事力を借りるという内容です。
東西冷戦が進むなか、駐留米軍(占領軍)はそのまま在日米軍に変わり、アメリカは極東の最重要拠点を維持できました。しかも、同盟は日本の必要以上な再軍備を防ぎ、アジア諸国に安心感を与えるとともに、再びアメリカに対して脅威にならないように抑えられました。
一方、日本側も再軍備が比較的軽く済み、その分だけ経済に専念できたため、お互いに「Win-Win」の関係となりました。
すなわち、日米両国の思惑が一致したところ、日本は基地を提供しながら、米軍を自国防衛に利用できた形です。
非対称の関係ではある
通常の軍事同盟とは違って、日米同盟は相互防衛を想定しておらず、「一方的」「片務的」という意見があります。この点はトランプ大統領も言及しており、日本がアメリカに対する防衛義務を担わず、不公平との不満を表してきました。
しかしながら、基地と軍事力の交換は非対称性とはいえ、日本側は土地・労働力の提供を含む、条約で決められた義務は果たしています。米韓同盟のような相互防衛義務はなく、他より異質な関係ではありますが、前述の歴史的経緯を考えれば、それは日米両国の事情に好都合なものでした。
さらに、近年は日本の役割の変化が目立ち、アメリカに集団的自衛権を行使できたり、自衛隊が反撃能力を保有するなど、その非対称性が少しばかり是正されました。
この非対称性がある限り、日本はNATO諸国と比べて地位協定の立場が弱く、米軍絡みの犯罪で論争が起きていました。現在は日本側も反撃能力を持ち、アメリカとともに戦う態勢になりましたが、その分だけ地位協定の見直しを求めるべきでしょう。
極東全体を守る戦略同盟
さて、日米同盟といえば、アメリカが日本を守るというイメージですが、この認識は必ずしも「正解」ではありません。
なぜなら、その適用範囲は日本列島に限られておらず、極東全体の平和と秩序維持を想定しているからです。これは以下の抜粋のとおり、日米安全保障条約の第6条で明記されています。
日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
第5条にはアメリカの対日防衛義務があるため、在日米軍は日本を守りますが、それと並んで極東地域の軍事作戦にも使われます。
むしろ、こっちの方が日米同盟の本質に近く、日本という出撃拠点・後方基地を確保しながら、韓国や台湾などに戦力展開するのが狙いです。まさしく日本は不沈空母であって、朝鮮半島や台湾有事では死活的な兵站拠点になるため、米韓同盟・米台同盟は日米同盟なしでは機能しません。
たとえ相互防衛義務はなくとも、米韓同盟のような対北朝鮮の「ローカル同盟」とは異なり、日米同盟は極東全域を支える「戦略同盟」に該当します。
この事実に基づけば、日本の地政学的な重要性は大きく、アメリカのアジア太平洋戦略には欠かせません。もし日本から撤退すれば、それはアジア太平洋からの撤退に等しく、同地域における影響力を全て失うでしょう。
それは太平洋戦争で勝ち取った利権・勢力圏を放棄して、最前線がハワイまで後退することを意味します。
だからこそ、日本を見捨てるなど常識的には考えられず、日本がアメリカを必要とするように、アメリカにとっても失ってはならない同盟国です。
双方が互いを失ってはならず、日本側が想像している以上に、日米同盟はアメリカにとって有益なのです。
コメント