傑作機を継ぐ国産機
海上自衛隊の重要な任務に「哨戒」という仕事があります。これはいわゆる「パトロール」であって、日本は四方を海に囲まれている以上、空からの警戒監視が欠かせません。
それゆえ、海自は「P-3C オライオン」という優れた対潜能力を持ち、世界的に有名な機体を数十年前から運用していますが、老朽化にともなう更新を図るべく、国産のP-1哨戒機を登場させました。
- 基本性能:P-1哨戒機
全 長 | 38m |
全 幅 | 35.4m |
全 高 | 12.1m |
速 度 | 時速996km |
航続距離 | 8,000km |
高 度 | 13,520m |
乗 員 | 11名 |
兵 装 | 対潜爆弾、魚雷 対艦・対地ミサイル×8 |
価 格 | 1機あたり約200億円 |
P-1は防衛省と川崎重工業が共同で取り組み、空自のC-2輸送機と同時開発された関係から、両者は部品の25%を共通化するなど、一定のコスト削減に成功しました。
開発を巡って国産派と海外輸入派が対立したものの、P-3C導入時も似た状況が発生しており、このときは国産派が敗れた経験からか、今回はリベンジを果たした形です。ちなみに、P-1の代わりに海外輸入派が推したのが、アメリカの「P-8ポセイドン」哨戒機でした。
哨戒能力、攻撃力の強化
従来のP-3Cとは違って、P-1は4発のジェット・エンジンを持ち、速度と航続距離を伸ばしながら、全体の静粛性も大きく改善しました。
潜水艦を探知・追跡したり、広大な海を警戒監視するべく、P-1は10時間以上の連続滞空時間を誇り、機内には休憩スペースやトイレに加えて、以前は干渉防止で使えなかった電子レンジなど、長時間任務に備えた快適性も確保しました。
また、「フライ・バイ・ライト」の飛行システムを導入したところ、操縦アシスト機能が強化されたほか、従来より電磁波妨害に強くなりました。このシステムは光ファイバーを使い、断線時の修理こそ難しいものの、その代わり操縦性は向上しました。
洋上監視中のP-1(出典:海上自衛隊)
哨戒任務では新しい光学・赤外線探索装置とともに、AESAレーダーで前方240度をカバーしながら、広範囲にわたって常時監視する仕組みです。その結果、遠距離・高高度から小さな目標を見つけやすく、小型船舶に対する能力はP-3Cに勝ります。
一方、対潜哨戒では音響探知装置、機体尾部の磁気探知機(MAD)で海中を探り、「ソノブイ」という簡易ソナーも投下可能です。
このソノブイは対潜哨戒に欠かせず、P-1では機体下部に38個の発射口を持ち、機内から全て再装填できるようになりました(P-3Cは飛行中に3つまで)。しかも、ライバルのP-8と異なり、最初の装填時は人力ではなく、自動化で乗員の負担を減らしました。
こうしてソノブイなどで情報を集めたあと、情報処理装置で一元的な分析・識別を行い、味方の護衛艦や航空機に共有します。P-3Cと比べると、対潜探知能力を高めたにもかかわらず、すでにP-1は「能力向上型」も登場しており、AI技術を使った新しい識別システムを搭載しました。
なお、兵装は対潜魚雷・爆弾のみならず、最大8発の対艦・対地ミサイルを装備できるようになり、単純計算ではF-2戦闘機の倍近い対艦ミサイルを発射可能です。ただし、対地攻撃用の「マーベリック・ミサイル」は射程が約30kmと短く、わざわざ撃墜される危険を冒しながら、目標まで接近せねばなりません。
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