アメリカが誇る最強のステルス戦闘機機
航空技術が発達した現在、世界各国はステルス戦闘機の開発や導入に躍起になっており、その代表例がアメリカとその同盟諸国が配備を進めているF-35ライトニングII戦闘機と言えます。しかし、そんなF-35を凌駕するステルス戦闘機がアメリカのみで運用されているF-22ラプターです。
⚪︎基本性能:F-22ラプター
全 長 | 18.92m |
全 幅 | 13.56m |
全 高 | 5.08m |
乗 員 | 1名 |
速 度 | 最大マッハ2.42 (時速2,575km) |
航続距離 | 最大2,960km (増槽あり) |
上昇限度 | 20,000m |
兵 装 | 20mmバルカン砲×1 (480発) 対空ミサイル 対地誘導爆弾 |
価 格 | 1機あたり165億円以上 |
猛禽類を意味する「ラプター」の愛称で知られるF-22戦闘機は、F-15戦闘機の後継機としてアメリカが開発したステルス戦闘機であり、F-15が航空優勢(敵の脅威を排除して作戦を遂行しやすい状態)の獲得を目指していたのに対し、F-22は戦域全体の支配をコンセプトにした機体。つまり、敵航空機の撃破だけではなく、敵を圧倒して戦場を完全支配する存在として開発されたのです。
開発計画そのものは冷戦中の1980年代にスタートしましたが、遅延によって部隊配備が実現したのが2005年であり、仮想敵国だったソ連の消滅と1機あたり約165億円というコスト高騰によって生産数は当初の750機から大幅減の187機になりました。
さて、そんなF-22戦闘機ですが、やはり1番の特徴は「ステルス性能」でしょう。 F-15などが有視界での格闘戦、いわゆるドッグファイトにおける戦闘能力を重視していたのに対し、F-22は相手レーダーに探知されずに接近し、対空ミサイルで一方的に撃破する「先制発見・先制攻撃・先制撃破」をコンセプトにしています。
まず、従来の戦闘機とは異なる「近未来感」の外見をしていますが、これは機体のあらゆる箇所を三角形を組み合わせた形状にしたうえで、レーダー波の反射を意識した角度をつけることで、反射を一部の方向に集中させるため。返ってくるレーダー波が少ないとレーダーに映る機体も小さくなり、このレーダー反射断面積(RCS)が少ないほどステルス面では有利なのです。

さらに、機体全体にはレーダー波を吸収する素材と特殊な塗料が用いられており、それでも吸収を逃れたレーダー波は表面に細かい凹凸をつけた構造によって内部反射を繰り返し、最終的に消滅するそうです。このように特別な設計と特殊な素材及び塗料を使った結果、レーダー反射断面積において、F-22はF-15の10㎡に対してわずか0.005㎡という驚異の数値を叩き出しました。これは鳥よりも小さく、昆虫より少し大きい程度の数値なので、レーダーにほとんど映らないに等しいと言えます。
その高いステルス性能を示すエピソードとして、2006年に行われた演習で1機の損害も出さずに144機も撃墜した伝説が挙げられます。互いに視認できる近距離での演習では「被撃墜」の記録も出していますが、探知されずに一方的に攻撃できる前提に立てば、やはりF-22戦闘機に敵う戦闘機は今のところありません。
高推進エンジンが生むスーパークルーズ能力
ラプターの1番の売りがステルス性であることは間違いありませんが、他にも特筆すべき点がいくつかあります。その一つが超音速巡航能力(スーパークルーズ)です。
通常、戦闘機が超音速飛行をする場合、エンジンの排気にもう一回燃料を吹き付けて燃焼させて高出力のブーストを得るアフターバーナーを使います。アフターバーナーは高い推進力を出すには優れていますが、燃料を大量に消費するため、長時間は使えません。
しかし、F-22は推力の高い新型エンジンを搭載することで、燃費の悪いアフターバーナーを使用しなくてもマッハ1.5以上の超音速飛行をすることができ、高機動運動を従来よりも長時間行えます。

当然、高機動運動はパイロットに大きな負担(G)をかけますが、操縦系統はコンピューター制御の操縦システムである「フライ・バイ・ワイア」を3重に用いることで、自動的に機体の安定を図ります。このように、パイロットの力量にあまり頼ることなく高い安定性を維持するため、近接の格闘戦でも優位性を保てると言われています。
ちなみに、この高推力のエンジンのおかげで1,000m程度の滑走路でも運用できる短距離離着陸能力(STOL)も有しており、
進化したアビオニクスとネットワーク化
そして、エンジン以外にも特徴的なのが最新の電子機器類です。いくらステルス性に優れても、レーダーを始めとするこちらの電子機器が劣っていては意味がありません。
F-22が搭載しているレーダーは、250km以上先の目標を探知できる一方、電波漏れを抑えることで自分の位置を暴露しにくくなっています。加えて、探知用のアンテナを30個以上も機体に埋め込むことで全周360度の探知能力を確保しており、探知した目標は種類を特定した後、情報を三次元画像として提示されます。
むろん、対電子妨害能力も有しており、相手が使用している周波数帯に合わせた妨害電波を発信することが可能となりました。逆に敵の電子妨害に対しては、搭載された電子機器は複数搭載することでリスクの分散を図っています。
これら最新の電子機器を用いることで「ネットワーク化」も図られており、特にデータ・リンク能力は大幅に向上しました。例えば、F-22は僚機や早期警戒管制機、イージス艦、レーダーサイトなどとデータ・リンクを用いて情報を共有し、連携することが可能です。
実は「未知数」の空戦能力
では、実戦においてF-22はどのような能力を発揮するのでしょうか。
F-22が配備されてから既に15年以上経ちますが、今まで投入された実戦は対イスラム国戦闘での空爆任務のみ。すなわち、各種演習では「無敵」を誇るF-22も実際の空戦は未経験であり、その真価は未知数なのです。
本来の空戦任務では、固定武装の20mmバルカン砲に加えて、最大で短距離対空ミサイル2発と中距離対空ミサイル6発を搭載して出撃します。特に後者の中距離対空ミサイルは射程70km以上を持ち、発射後は「撃ち放し能力」に委ねるため、相手に探知されずに遠距離からミサイルを撃って撃墜するF-22のコンセプト向けです。

空戦能力に重きを置いたF-22ですが、対イスラム国の実戦でも証明したように対地攻撃能力も付与されており、130kg誘導爆弾を最大で8発搭載可能(450kg爆弾ならば2発)。レーダーに探知されないため、いきなり現れて空爆できるという点ではかなり有効であり、初戦における敵レーターやミサイルなどの対空防衛網を破壊する際に投入されるでしょう。
このように対空ミサイルと対地爆弾を搭載できるF-22ですが、これらの兵装は全て胴体の下面1箇所と側面2箇所に設けられた内蔵式のウェポンベイに格納されます。外付けしないことで空気抵抗を減らすとともに、ステルス性を失わないようにしました。
高性能がゆえの高コストで生産終了
各種能力で最先端を誇るF-22ラプターですが、弱点はやはり「高すぎる」ことでしょう。
実は、F-22は複雑な構造と機能を有するステルス戦闘機でありながら、端末を使った自己診断とモジュール交換のみで整備が済むため、整備面ではそこまで大きな手間はかかりません。その一方で、使われている部品は機密が多く、繊細であることから機密漏洩の防止や修繕の必要性でコストが高騰します。特に、レーダー波を吸収する素材や塗料は風雨に弱いため、高頻度の手入れが求められます。
F-22ラプターは、最強であるが故に1機あたり165億円以上という価格に仕上がったわけですが、アメリカは本機に関しては同盟国への輸出によるコスト削減をしませんでした。
その理由はまさにアメリカが誇る最高峰の機密が詰まった機体だからであり、その機密が同盟国を通じて万が一漏れることを危惧したため。当然、アメリカの同盟国、特に日本は導入を切望し、一時は輸出に向けた動きも見られたものの、結局アメリカ自体が生産を打ち切ったことでその可能性は潰えました。
ちなみに、日本が自衛隊向けに導入していた場合、1機あたり200億円を超えたでしょう。その分、航空自衛隊に配備した場合、中露との戦力バランスが一気に傾いたとも言われています。F-22とはそれだけの代物なのです。

既述のように、計画当初は750機以上を配備する予定だったF-22は、冷戦終結による仮想敵国の消滅で調達数が削減され、単価が高騰してさらに調達数が減るという負のスパイラルに陥りました。その結果、配備数は187機に留まり、F-15を置き換える機数には遠く及びません。
現在、生産ラインは既に閉鎖され、F-35ステルス戦闘機やF-15戦闘機の最新版に主軸を移しました。ただ、F-22をベースとした新型機の開発構想も浮上しており、将来的には日米でF-22を超えるステルス戦闘機を開発する話もあります。生産中止になった頃と比べて、中国の海空戦力は著しく増強されており、今後もますます強化されることを考えると、事実上のF-22改が検討されてもおかしくはないでしょう。
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