優秀な汎用ヘリ「UH-1J」の後継として
陸上自衛隊は空中機動手段としてヘリコプターを用いており、特に大型のCH-47チヌークや汎用性の鑑といわれるUH-1シリーズは長年にわたって愛用されてきましたが、現在は老朽化しつつある後者を更新する新型ヘリ「UH-2」が開発され、2021年から部隊配備が始まりました。
⚪︎基本性能:UH-2多用途ヘリコプター
全 長 | 17.1m |
全 幅 | 2.9m |
全 高 | 4.6m |
乗 員 | 2名 |
速 度 | 時速260km |
航続距離 | 約660km |
高 度 | 約6,000m |
兵 装 | 機関銃を設置可能 |
輸送力 | 人員13名 貨物3,000kg |
価 格 | 1機あたり約12億円 |
陸自が半世紀以上にわたって運用してきたUH-1シリーズは世界各国で使われている名機ですが、航続距離の物足りなさと洋上飛行における不安定さが指摘され、運用中の「UH-1J」のなかには既に想定耐用時間を超えた機体も現れるなど、航空輸送力を維持するための後継機の開発が急務でした。本来はUH-60JAなどのブラックホーク・シリーズが後継に該当するものの、UH-1Jよりも3倍近い値段がすることから全数更新はそもそも不可能でした。
そこで、SUBARU(旧富士重工業)とアメリカのヘリコプター大手・ベル社が共同開発したのが「UH-2」と呼ばれる新機体で、ベル社の「412 EPX」をベースにしたこのヘリは優れた汎用性と安定性を持地、既に米軍や警察、民間企業で幅広く使われている実績があります。
中身が遂げた「進化」と今後の課題
UH-1JとUH-2の相違点について見ていくと、まずローターブレードを従来の2枚から4枚に倍増した結果、騒音や振動が少なくなり、これに伴ってUH-1Jの弱点だった洋上飛行時の揺れも軽減されて安定性の向上につながりました。また、エンジンも単発から双発に変更したことで出力を増強し、UH-1Jよりも優れた航続距離と到達高度、輸送力を持ちます。このように見た目こそ劇的な変化はないものの、性能面では発展、進化を遂げているのがUH-2の特徴で、価格もUH-1Jと大差ないので自衛隊の装備品として珍しく素晴らしいコストパフォーマンスを誇ります。

他にも、コックピットの計器類がそれまでのアナログ式からディスプレイ式に変更され、ナビゲーション機能も付与されたので一部の従来機のように紙の地図やGoogle Mapを見ながら眼下の地形と照合する必要がなく、操縦性に関しては大幅に改善されました。
一方、本機はあくまで輸送を目的したヘリなので固定武装は付いておらず、UH-1Jと同様に必要に応じてドアガンを設置することになります。一部の機体にはミサイル警報装置とチャフおよびフレア発射機を取り付ける構想があるようですが、ロシア=ウクライナ戦争でも見られたように低空飛行するヘリはスティンガー・ミサイルのような携帯式防空システムの餌食になりやすいため、こうした最低限の自己防御機能は全機に装備した方がよいでしょう。
このように陸自の次期主力ヘリを見据えて開発されたUH-2は、2021年に各種試験を終えて部隊配備が始まり、今後は約20年かけてUH-1Jを全数置き換えるのに十分な150機近くが生産される見込みです。現在は対中国を睨んだ島嶼防衛が安全保障上の最大課題となっているなか、洋上の飛行性能を高めたUH-2はCH-47JやV-22オスプレイとともに空中機動による迅速な戦力展開への貢献が期待されます。
対中国を見据えた島嶼防衛が主な任務となった現在では、海空からの戦力投入が想定されるため、UH-2のような洋上飛行能力を向上させたヘリの存在は貴重です。本土での作戦を中心に訓練していたUH-1Jとは異なり、UH-2は海上自衛隊の輸送艦などから発進して島嶼部に人員や装備を運ぶ役割を担うことになるでしょう。
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