現代航空戦には欠かせない「空の目」
空戦では相手を先に発見した方が当然有利になりますが、戦闘機が搭載しているレーダーは出力と探知距離が限られており、より広範囲をカバーする「早期警戒管制機」との連携が求められます。もちろん、地上レーダーや味方艦船などとの連携も行いますが、これらは水平線の先を探知しづらい弱点を抱えているため、水平線の影響を受けにくい高高度からの探知が可能な早期警戒管制機が「空の目」として欠かせないわけです。
機体上部に円盤型のレーダーを載せた姿が特徴の早期警戒管制機は英語で「Airborne Warning and Control System」と呼ばれることから日本でも頭文字をとった「AWACS(エーワックス)」の名で知られています。ただし、ここで一つ注意したいのが、探知や情報共有こそできるものの、管制能力が限られている「早期警戒機(AEW)」と呼ばれる機種もある点です。
⚪︎基本性能:E-767早期警戒管制機
全 長 | 48.5m |
全 幅 | 47.6m |
全 高 | 15.8m |
乗 員 | 21名 |
速 度 | 時速800km |
航続距離 | 約10,300km |
高 度 | 約12,000m |
探知距離 | 約300〜350km |
価 格 | 1機あたり約550億円 |
航空自衛隊は2000年に「E-767」を配備して航空戦における優位性に直結する早期警戒管制機を獲得しましたが、こちらの機体はアメリカのボーイング社が開発したにもかかわらず、現在使っているのは日本のみという不思議な経緯の持ち主です。もともとはアメリカや韓国、オーストラリアも検討していたのですが、より低コストの他機種を導入して日本だけが残ったため、「J-WACS(ジェイワックス)」と呼ばれることさえあります。
民間旅客機の上にそのまま円盤型レーダーを載せたような外見のE-767は作動時にゆっくり回転するこのレーダーおかげで全周360度に対する監視能力と最大350km以上の探知距離を誇るものの、四方に強力な電波を発するので乗員保護の観点から窓はほとんどなく、駐機中のレーダー作動には特別な許可と安全確保が必要となります。
機内には空港の管制塔でも見られるような各機材が並び、これらを操作する要員が19名も搭乗しますが、作戦次第では最長12時間以上の連続滞空も想定されるので休息スペースや簡易キッチンが設置されました。一方、通常の警戒監視に加えて、指揮管制能力も持つE-767は護衛の戦闘機を伴いながら戦闘空域から離れた高高度を飛行することから兵装や自衛機能は付与されていません。

高高度から戦場を俯瞰的に監視するE-767は探知した目標をただ単に味方に連携するのではなく、その脅威度と優先順位を判別したうえで、味方戦闘機を指揮・誘導するので、いわば「空中司令部」ともいえる存在です。本来、こうした役割は地上司令部が担うものの、重要目標である司令部や地上レーダーは真っ先に狙われて機能喪失に陥る可能性があり、このような事態を想定して捕捉されにくい早期警戒管制機がバックアップとしても必要なのです。
超重要アセットだが、脆弱性と高コストが悩み
敵にとっての優先目標で、戦闘機のような機動性と兵装を持たない早期警戒管制機は撃墜されやすいという脆弱性を抱えていますが、「空の目」を潰された側が著しく劣勢になる点を考えると、現代空戦では「いかにAWACSを守り切るか」という課題が
そんな超重要アセットの早期警戒管制機は他の軍用機と比べてもコストがかなり高く、整備や訓練を考えた場合は最低3、4機でのローテーションが必要となり、実際に導入できる空軍は限られています。特に空自のE-767は1機あたり550億円以上という金額を叩き出していることから現在もわずか4機が浜松基地に配備されているに過ぎず、稼働率と被撃墜のリスクをふまえると冗長性はないに等しいです。
一方、諸外国に目を向けると高価な早期警戒管制機と比べて能力は劣るものの、一定の管制能力を備えた「AEW&C」にシフトしつつある傾向が見受けられますが、これは従来の早期警戒管制機と早期警戒機の中間に位置するイメージです。E-767の後継候補としても名が挙がる「AEW&C」は指揮管制能力で多少劣っても、維持管理費を含めた全体コストを考えれば、優れた費用対効果を発揮できる点が評価されているのです。
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