陸自が輸送艦?海上輸送部隊とは

艦船

島嶼防衛を見据えた海上輸送力の強化

中国の海洋進出を前にした陸上自衛隊は従来の北方重視から南西諸島を意識した「島嶼防衛」にシフトしており、日本版海兵隊である水陸機動団の発足や水陸両用車AAV-7の配備などを進めてきました。しかし、島嶼防衛では避けて通れない「海上輸送」という点では、当然ながら今の陸自にその能力はなく、本来これを担当する海上自衛隊の輸送艦艇は「おおすみ型」3隻と輸送艇1号型の1隻のみとなっています。

つまり、現在の自衛隊は島嶼防衛に必要な人員及び装備、物資を本土から遠く離れた地まで運ぶ海上輸送能力が心許ない状況なのです。もちろん、海自も後継輸送艦や強襲揚陸艦の導入を検討しているようですが、これら大型艦は就役まで時間がかかります。

そこで、陸自は民間フェリー「ナッチャンWorld」と契約を結んで演習時の海上輸送に使っていますが、有事の際も同様に使用すると思われます。戦時においては民間船の使用・徴用はよくあることですが、自己完結型の組織を目指す軍隊にとってはやはり自前で手段を持っておくのがベストでしょう。

陸自輸送艦のイメージ?アメリカ陸軍が運用する兵站支援艦(出典:アメリカ陸軍)

こうした状況をふまえて、陸自は海自と共同で「海上輸送部隊」を発足させ、独自に輸送艦を保有することを決めました。具体的には、2,000トン級の中型輸送艦1隻と400トン級の小型輸送艇3隻を導入し、海上輸送部隊を2024年までに新設します。

そして、将来的には輸送艦艇を追加取得して中型輸送艦2隻、小型輸送艇6隻体制を目指すそうです。これらの艦艇は主に離島への装備と補給物資(弾薬や食糧)を搬送するために使われますが、有事における水陸機動団の輸送も視野に入れています。

船乗りとなる陸自隊員たち

さて、陸自が独自の輸送艦を持つことに対して、旧軍を彷彿させるとの意見があります。確かに、陸海軍間の協力が著しく欠けていた旧軍では、太平洋戦争中に陸軍が自分たちの潜水艦を作っていました。

この陸軍潜水艦は南方戦線の守備隊に補給物資を輸送するためのものであり、既に制海権を失いつつあった海軍に輸送任務用の潜水艦を出す余裕がないという事情もありました。海軍に余裕がないから陸軍が代わりに行うという点では少し似ているかもしれません。

しかし、今回のケースで明らかに違うのは陸と海が協力して運用する点です。既述のように、海上輸送部隊は陸自と海自の共同部隊であり、普段から協力して輸送艦を共同運用することで迅速かつ柔軟な海上輸送を実現します。平時から一緒に運用すれば、いざという時のスレ違いや混乱が減りますからね。

さて、そんな海上輸送部隊ですが、所属する陸自隊員たちは船を運用するうえで必要な知識とスキルを身に付けるべく、海自の術科学校に入校して勉学に励みます。学校では航法や機関、手旗や旗りゅう信号などについて勉強し、卒業後は「おおすみ型」輸送艦で実際に勤務することで腕を磨くそうです。

陸自隊員たちも研修・勤務する「おおすみ型」輸送艦(出典:海上自衛隊)

この「船乗り」を目指す陸自隊員たちは、希望と選抜の末に入校していますが、最初は陸自と海自の文化や用語の違いに直面するとのこと。例えば、敬礼の角度は陸自が90度なのに対して、海自は狭い艦内を考慮した45度です。こうした微妙な違いに加え、船酔いにも悩まされるそうですが、それでも志願して来ているためか、陸自では学べない、経験できないことを知る面白さと新鮮味の方が勝るようです。

今までもサイバー防衛や情報の分野では共同部隊が設置されてきましたが、輸送艦のような大型装備を日頃から共同運用するのは初の試みです。したがって、自衛隊の統合運用が叫ばれている中で、新設される海上輸送部隊は陸海の垣根を超えた新たな協力の試金石となるでしょう。

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