北欧ノルウエーが生んだ対艦ミサイル
北欧諸国といえば「平和」「穏やか」のイメージが強いですが、実はアメリカも買うほどの高性能兵器の開発が得意という一面を持っています。ノルウェーも例外ではなく、特に優れたミサイルを開発することに定評があるのです。例えば、対艦ミサイルといえばアメリカのハープーン・ミサイルが有名ですが、近年はアメリカ海軍が沿海域戦闘艦(LCS)の対艦攻撃兵器として採用したことでノルウェー産のNSMミサイルに注目が集まりました。
⚪︎基本性能:NSMミサイル(ナーヴァル・ストライク・ミサイル)
全 長 | 3.95m |
直 径 | 60cm |
重 量 | 407kg |
弾 頭 | 125kg |
速 度 | マッハ0.95 (時速1,170km) |
射 程 | 200km |
価 格 | 1発あたり約3億円 |
ステルス性を意識した設計と一部で電波吸収剤を使っていることが特徴のNSMミサイルは「海軍打撃ミサイル(Naval Strike Missile)」の略であり、ノルウェーが開発して2012年から配備を始めました。ちなみに、開発元のコングスベルグは米ホワイトハウスも守る防空システムNASAMSを開発した会社としても有名です。
NSMは発射後しばらくはGPSまたはミサイル自身のセンサーや計器(慣性航法装置)によって飛びますが、沿岸部での使用と陸上からの発射も想定していることから地形と照合しながら飛行する能力も付与されました。そして、探知を避けるために海面スレスレを飛行した後、最終段階では対妨害能力を強化した赤外線画像による誘導方式に切り替わるとともに、敵の迎撃を妨害する目的で不規則な旋回などを行います。

弾頭には爆風や断片を飛び散らしてダメージを高める高性能爆薬が搭載されていますが、多機能信管を内蔵することで効果的なタイミングで損害を与えられるように爆薬の作動を制御します。さらに、突入時は水上艦艇の喫水線付近を狙えるため、海水が流入して被害復旧を阻害する「嫌なポイント」を突くことができます。
前述のように陸上からも発射可能ですが、この場合は発射機を載せたトラックや移動式レーダー、指揮通信車両とともに海岸付近もしくは離れた奥地に展開します。また、艦艇における運用では通常は対水上戦闘に用いられますが、他にも地上目標に対しても使用できるそうです。
ハープーン・ミサイルの後継者になれるか?
さて、ハープーンミサイルと比べるとステルス性や敵の迎撃をかいくぐる能力はNSMに軍配が上がると思われますが、その分コストはNSMの方が高くなります。しかし、ハープーンは堅実性と信頼性こそあるものの、登場から既に半世紀が経つので陳腐化が否めず、アップグレード版の展望も不透明な部分が多いです。
一応、ハープーンの後継は配備が始まっているLRASMミサイルが該当しますが、米海軍は前述の沿海域戦闘艦に加えて、将来就役するコンステレーション級フリゲートにはNSMを搭載するつもりです。また、米海兵隊の中国海軍に対する切り札となるNMESIS(ネメシス)無人対艦兵器にもNSMミサイルが採用されました。
他にも、ポーランドやドイツがNSMミサイルを購入していますが、バルト海に面するポーランドは沿岸防衛の要として地上発射型を選びました。これは対ロシア海軍を見据えた沿岸ミサイル師団向けの装備として導入するものですが、陸上自衛隊の地対艦ミサイル連隊と似た役割・運用になるでしょう。

ここで気になるのは「日本が導入する可能性はあるか?」について。
海上自衛隊はハープーン以外にも国産の90式艦対艦誘導弾と最新の17式艦対艦誘導弾を運用しており、陸上自衛隊も同様に国産の88式地対艦誘導弾、12式地対艦誘導弾を沿岸防衛の切り札として保有しています。したがって、防衛産業の保護と国産開発の実績を考えると、海自艦艇および陸自向けにわざわざNSMミサイルを導入する意味はあまりないでしょう。
ただ、実はNSMミサイルの派生型を導入することが決まっています。それが「Joint Strike Missile(JSM)」と呼ばれるもので、日本語ではスタンド・オフ・ミサイルや統合打撃ミサイルと訳されますが、要するにF-35ステルス戦闘機向けに作られた長射程の巡航ミサイルです。F-35戦闘機を運用中の航空自衛隊はこのJSFミサイルを配備予定ですが、これによってF-35に対艦・対地攻撃能力が付与されることになります。
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