いつ引退?あさぎり型護衛艦

海上自衛隊
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新八八艦隊を支えた汎用護衛艦

ソ連海軍の増強が著しい1980年代、海上自衛隊は防空及び対潜能力を強化するために1個護衛隊群(艦隊)を護衛艦8隻、対潜哨戒ヘリ8隻で構成する「8艦8機体制」を目指しました。かつて日本海軍が戦艦8隻、巡洋戦艦8隻による「八八艦隊」を追求したことになぞらえて「新八八艦隊」と呼ばれるこの体制の一翼を担ったのが今も現役の汎用護衛艦「あさぎり型」です。

⚪︎基本性能:「あさぎり型」護衛艦

排水量3,500t (基準)
全 長137m
全 幅14.6m
乗 員220名
速 力30ノット (時速56km)
兵 装・76mm速射砲×1
20mm CIWS×2
・シースパロー8連装発射基×1
・アスロック8連装発射基×1
ハープーン対艦ミサイル×8
・3連装短魚雷発射管×2
艦載機SH-60J哨戒ヘリ×1
価 格1隻あたり約430億円

「あさぎり型」は海自初の汎用護衛艦である「はつゆき型(退役済)」の大型かつ改良版であり、当時としては最新の情報処理システムや対潜ソナーを搭載しました。この情報処理システムによって僚艦や哨戒ヘリ等との情報共有が可能となり、艦隊というチームでの行動がとりやすくなりました。

また、後半に建造された4隻は新型の3次元対空レーダーを装備しましたが、これは残念ながら評判が悪かったようで、結局ほぼ全面的に改良した別のタイプが開発されます。

兵装は現在の新鋭艦でも見かける基本装備を搭載しており、対潜から対空、対艦までの攻撃能力をひと通り有しています。ただし、現代では標準装備となっているミサイルの垂直発射基(VLS)はなく、シースパロー対空ミサイルアスロック対潜ミサイルをそれぞれ8連装の発射機に収めています。これらは発射時に目標に向けて旋回する必要があり、装填数でもVLSには劣ります(シースパローについては、一部の艦は弾薬庫からの自動装填装置が設置されている)。

あさぎり型の主要装備(出典:海上自衛隊、筆者加工)

さて、「あさぎり型」の最大の特徴と言えるのが、最初からSH-60J哨戒ヘリの搭載を前提に設計されている点です。SH-60Jは当時の最新対潜ヘリであり、本機とP-3C哨戒機の導入によって海自の対潜能力が一気に飛躍したと言ってもいいでしょう。

そのため、8艦8機体制を目指す海自にとってこの哨戒ヘリの運用能力を持つ護衛艦の存在が重要であり、格納庫と発着艦支援装置、既述の情報共有能力を備えた「あさぎり型」はまさに新八八艦隊のワークホースとなりました。

外見からも分かるように「あさぎり型」は艦の後部に大きな格納庫を設けており、哨戒ヘリの収容と整備を難なく行えるスペースを確保しています。載せるだけならば最大2機まで可能ですが、発着艦支援装置は1基しかないので実際に2機を運用することはありません。

中国に対抗するための現役続投?

既に登場してから30年以上が経過した「あさぎり型」はそろそろ退役を迎えてもいい頃ですが、現在でも全艦が護衛艦として運用中です。後継の汎用護衛艦である「むらさめ型」「たかなみ型」が艦隊の中核を担っているので、機動戦力である護衛隊群からは退いていますが、いわゆる地方隊では主力として配備されています。

これは中国海軍の増勢を受けて、護衛艦の定数を54隻に増強したことに伴う措置であり、「あさぎり型」は艦齢の延伸工事と装備の近代化改修を施したうえで、当初よりも最大10年の現役続投となる見込みです。実際、1番艦と2番艦の「あさぎり」「やまぎり」については退役を見据えて一度は練習艦に変更されましたが、その後は再び護衛艦として復帰しています。

ちなみに「やまぎり」は2016年に大谷三穂2佐(当時)が着任したことで海自初の女性艦長が誕生した護衛艦としても有名であり、一時はメディアの注目を集めました。その大谷艦長はその後出世して1佐となり、女性初のイージス艦艦長として護衛艦「みょうこう」に着任したそうです。

地方隊で現役バリバリの「あさぎり型」護衛艦(出典:海上自衛隊)

対中国を見据えた戦力確保のために現役続投となった「あさぎり型」ですが、近代化改修では情報処理や戦闘指揮用のシステムをアップグレードしており、「中身」は初期と比べて大幅に変わりました。しかし、それでも古い艦であることに否めず、能力拡張にも限界があるので旧式艦で数合わせしているのが現状です。

現在もシステムの近代化や低視認性への塗装変更が順次行われており、「あさぎり型」は昭和、平成、令和の3つの時代を駆け抜けた護衛艦になるでしょう。中国海軍に対抗するために老骨にムチを打って働く「あさぎり型」ですが、「もがみ型」フリゲートが揃うまでは日本の海を守り続ける予定です。

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