本来は「つなぎ役」だった
アメリカ海軍は太平洋戦争で日本軍と戦い、そのまま突っ込んでくる特攻機に大きな損害を受けたところ、艦隊防空の必要性をさらに痛感しました。
その後、ミサイル技術の発達で防空の重要性が増すなか、水上艦艇にも対空ミサイルを積んで問題解決を目指します。しかし、アメリカはこの分野で先行していたとはいえ、いまだに近距離防空は対空砲に頼っていたため、この範囲をカバーする対空ミサイルが求められました。
とりあえず、陸軍の短距離地対空ミサイルの計画に参加するも、開発難航を受けて別の道を模索します。それが、すでに実用化されていた空対空ミサイル「スパロー」を改良するというものでした。
これが「シースパロー」の誕生につながり、いまでは艦対空ミサイルの代名詞になったわけですが、採用時はいずれ開発される本命までの「つなぎ扱い」でした。
- 基本性能:シースパロー対空ミサイル(最新型)
全 長 | 3.66m |
直 径 | 0.2m |
重 量 | 231kg |
弾 頭 | 爆風破片効果弾頭:40kg |
速 度 | 秒速850m |
射 程 | 26km |
価 格 | 1発あたり約2,200万円 |
シースパローは英語で「海のスズメ」という意味を持ち、米海軍における近距離防空の標準装備になったほか、日本を含む18カ国以上でも導入されています。
前述のようにつなぎ役として配備されていたものの、最終的には陸軍の短距離ミサイル計画に見切りをつけたため、個艦防空システムとして正式採用されました。
こうして一転して本命に格上げされたあと、射程延伸や弾頭の大型化などの改良を受けながら、いまも世界各国で使われています。
最終防衛の手間を担う
シースパローといえば、アスロック対潜ミサイルと同じく、8連装の発射機から放たれるイメージが強いですが、垂直発射システム(VLS)が主流になるにつれて、VLS発射型が増えるようになりました。
ミサイル迎撃では確実に撃ち落とすべく、目標に対して2発を差し向けるケースが多く、シースパローも連射しやすいVLSで運用するのが理想的でしょう。
余談ながら、海上自衛隊のイージス艦が太平洋戦争にタイムスリップする「ジパング」において、シースパローをVLSから発射する描写がありますが、このときもミサイルを連射(サルボー)しています。

近距離防空用ということもあって、シースパローの射程は約26kmと比較的短く、敵のミサイルや航空機が中・長距離対空ミサイルを突破した場合に使われます。
発射後は母艦から目標に向けてレーダー波を放ち、当たってはね返った電波をミサイル自身が捉える仕組みです。このセミ・アクティブ方式の誘導で接近したあと、最後は直撃するのではなく、至近距離で爆発して飛び散る破片で目標を破壊します。
シースパローによる迎撃が失敗すれば、残るのは艦砲、20mm CIWS、またはSeaRAMによる最終防御しかなく、反応時間も数十秒しかありません。
したがって、防空におけるシースパローの責任は重く、その役割は最終防衛ラインのひとつ手前といえます。

現在も逐次改良されているとはいえ、シースパローの能力はあくまで近距離の個艦防空に限られており、自艦以外も守る「僚艦防空能力」も重視されるなか、次第に役不足感が指摘されてきました。
むろん、近距離防空ではまだまだ使えるものの、いまは進化した発展型シースパロー(ESSM)への更新が進み、シースパローはその数を減らしていく見込みです。
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