冷戦期に恐れられた「死の鳥」
アメリカ空軍で運用されている3つの爆撃機のうち、最も古いのが初飛行から70年以上も経過していながら現役バリバリの「B-52爆撃機」です。
ソ連への核攻撃を想定して大陸間爆撃機として1955年に登場したこの機体は、ベトナム戦争で初実戦を迎えて以降、アメリカが参加した各戦争・紛争に投入されていて、今後もなんと2045年まで運用されます。
⚪︎基本性能:B-52爆撃機
全 長 | 47.5m |
全 幅 | 56.4m |
全 高 | 12.4m |
乗 員 | 5名 |
速 度 | 最高時速1,028km |
航続距離 | 16,316km |
兵 装 | 爆弾、ミサイル等 最大16トン |
価 格 | 1機あたり約90億円 |
「成層圏の要塞(ストラトフォートレス)」という愛称を持つB-52爆撃機は、100発近い無誘導爆弾を抱えながら14,000m以上の高高度飛行を行います。
また、今まで対空ミサイルと事故による損失はあるものの、敵機による撃墜はなく、逆に機銃を使って2機を撃墜したほど。
冷戦期は先制攻撃による全滅を避けて、即座に反撃するために核爆弾を搭載した数機が常にソ連周辺を飛行していました。
これは確実な反撃によって先制攻撃を思い止まらせる「核抑止」の一環で、陸上配備型ミサイル、潜水艦発射型ミサイルとともに「戦略核兵器の三本柱」に数えられました。
幸いにも想定されたような核攻撃はせずに済んだ反面、通常爆撃には頻繁投入された実績を持ち、ベトナム戦争では多数のB-52が絨毯爆撃をした経緯から、北ベトナムは「死の鳥」として恐れました。
優れた総合性能で100年現役へ
1950年代に開発されたB-52は、B-2爆撃機のようなステルス性とは無縁で、アナログ計器類を使用しているなど、決して高性能な機体ではありません。
しかし、古い技術だからこそ、問題点がひと通り洗い出されており、対策とノウハウが確立しています。長年の実績がもたらす信頼性と使い勝手の良さが今も現役で愛用されている理由なのです。
未知の不具合を引き起こす新兵器よりも、安心して使える旧式兵器をあえて選択するケースがありますが、B-52爆撃機はまさにこの典型例といえます。

さらに、高性能な機体はその代償として高い維持費がつきまとい、高価であるがゆえに実戦投入しづらい心理が働きます。
対するB-52は費用対効果の点でも、戦場に投入する心理的ハードルの点でも優れています。特に、冷戦終結後は限定的な防空能力しか持たない国や非正規軍を相手にした爆撃任務が多く、わざわざ新鋭機を投入する理由がありませんでした。
長距離飛行して多くの爆弾を投下できるという「最も爆撃機らしい爆撃機」のB-52は、今も75機が運用されており、親子二代で乗るという状況も発生しています。これが最終的に2045年まで運用されるので、3代にわたってB-52のパイロットという家族すら登場するかもしれません。
この2045年までの現役続投によって、ずっと後に登場したB-1ランサーやB-2爆撃機が先に引退するなか、大先輩のB-52はエンジン交換を含めた近代化改修を受けつつ、現在と同じ75機体制を維持する方針です。
そして、開発中のB-21ステルス爆撃機とともに、将来の戦略爆撃体制を支えるわけですが、これは高額・高性能な兵器と安価・低性能の兵器を組み合わせる米空軍の「ハイローミックス」思想を反映したもの。

実際のところ、対中国を前にして予算不足に苦しむアメリカはB-52の後継機を新開発する余裕はなく、費用対効果に優れたB-52を延命した方が合理的と判断したようです。
しかし、防空能力を高めている中国軍の格好の餌食になりやすいので、敵勢力圏に侵入して叩く役割はB-21ステルス爆撃機に任せて、圏外からJASSM-ERなどの長距離ミサイルを発射するスタンド・オフ攻撃用の母機として運用される見込みです。
一方、平時においては仮想敵国と同盟国に対してアメリカの意志を示すのに適した機体で、「力の象徴」ともいえるB-52爆撃機の飛行を通じて敵対国を牽制、抑止しています。
このように平時・有事を問わず、対中国などを意識して飛び続けるB-52は退役が2050年代にズレ込む予測もあるため、初配備から実に100年間も運用される可能性すらあります。
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