小型かつ高速、そしてマルチを目指した存在
第二次世界大戦以降、圧倒的な戦力を維持してきたアメリカ海軍は冷戦終結後の軍縮と予算削減によって「コンパクト」「マルチ」を実現した艦船の整備を目指して「沿海域戦闘艦(Littoral Combat Ship:LCS)」を誕生させました。沿海域での活動を前提としながら、任務に応じて装備を変更できる柔軟性を目指したこのLCS構想は、対機雷戦や海賊対策のように高価な大型艦をわざわざ投入したくない状況に派遣できる存在として期待されました。このような背景をもとに登場したのが「フリーダム級」「インディペンデンス級」の2種類の沿海域戦闘艦で、当初は両者合わせて52隻が建造される予定でした。
⚪︎基本性能:フリーダム級、インディペンデンス級沿海域戦闘艦
フリーダム級 | インディペンデンス級 | |
排水量 | 2,707t(基準) | 2,543t(基準) |
全 長 | 115.2m | 127.4m |
全 幅 | 17.4m | 31.4m |
乗 員 | 65名 | 75名 |
速 力 | 最大47ノット (時速87km) | 最大44ノット (時速81km) |
航続距離 | 約6,500km | 約8,000km |
兵 装 (固 定) | ・57mm速射砲×1 ・21連装SeaRAM×1 ・12.7mm機銃×4 | ・57mm速射砲×1 ・11連装SeaRAM×1 ・12.7mm機銃×4 |
艦載機 | MH-60R/S哨戒ヘリ×1 無人機×1~2 | MH-60R/S哨戒ヘリ×1 無人機×1~2 |
価 格 | 約490億円 | 約490億円 |
建造数 | 19隻 | 16隻 |
沿海域戦闘艦の特徴は任務によって人員と装備を変えられる「ミッション・パッケージ」を導入した点であり、対機雷戦、対水上戦、そして対潜戦をそれぞれ想定した3つのタイプが用意されて最短3日での換装が想定されました。一例をあげると、対水上戦の場合は甲板にハープーン対艦ミサイルなどの発射筒を設置して対艦攻撃能力を付与するわけです。

一方、人員については艦自体の運用に必要な中核要員40〜50名に加えて、作戦に応じて35名ほどが乗艦しますが、海上自衛隊の「もがみ型」護衛艦でも採用されたクルー制を活用することで稼働率向上を図りました。また、駆逐艦と比べて戦闘能力が限られる沿海域戦闘艦は、後方に控える空母打撃群などの味方部隊とネットワークを通じて統合的に戦うことから、小型艦でありながら通信や情報共有機能が充実しています。
開発難航によるコスト高騰と建造打ち切り
このように柔軟性を持たせたコンパクト艦として期待された沿海域戦闘艦ですが、肝となるミッション・パッケージの開発が難航した結果、建造コストは当初見積りの2倍以上に膨れ上がってしまい、米議会を中心に「失敗作」との批判を浴びました。例えば、対機雷戦向けのパッケージでは無人潜水機の故障が頻発したあげく、搭載予定だった曳航式ソナーも開発中止になりました。
さらに、インド太平洋地域では中国海軍の増勢とA2AD戦略の推進によって比較的軽武装の沿海域戦闘艦では対処しきれない危険性が指摘され、空母打撃群ですら危ぶまれるこうした環境下では能力不足と生存性の低下が否めませんでした。
結局、激変した安全保障環境下での能力不足の懸念、そして目指していた「低コスト」からもほど遠くなってしまった沿海域戦闘艦は存在意義が問われる事態となり、最終的な建造数は52隻から35隻まで大幅削減されます。現在は就役まもない艦でさえ退役に追い込まれている状況で、ネームシップの「フリーダム」および「インディペンデンス」は既に予備役に編入されました。このように軍艦としてはまだまだ使える「若い」沿海域戦闘艦を順次退役させている米海軍は、高く付いてしまったLCS構想にさっさと見切りをつけて、次期フリゲートとして建造される「コンステレーション級」に移行したいのが本音です。
冷戦終結後の非正規戦も見据えたマルチで柔軟性が求められる時代に生まれたLCS構想ですが、皮肉なことに登場した頃には再び正規戦を見据えた重武装艦が必要となる時代に戻っていました。「不運の軍艦」になってしまったわけですが、構想そのものは決して悪くはなく、いずれ小型かつ軽武装の沿海域戦闘艦のニーズが再浮上するかもしれません。
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