先駆者?マルダー歩兵戦闘車とは

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西側初の本格的な歩兵戦闘車として登場

陸軍に力を入れるドイツは米ソ冷戦の最前線だったこともあり、戦後も多くの傑作兵器を生み出したことで有名です。代表的なのはレオパルト2戦車や陸上自衛隊でも使われているパンツァーファウスト3が挙げられますが、実は現代陸軍にとって欠かせない歩兵戦闘車も他の西側諸国に先駆けて登場させました。それが今も使われている「マルダー歩兵戦闘車」であり、現代の歩兵戦闘車の基礎を作ったとも称される名車です。

⚪︎基本性能:マルダー歩兵戦闘車(最新型のマルダー1A5A1)

重 量37.4t
全 長6.79m
全 幅3.24m
全 高2.98m
乗 員3名+兵員6名
速 度時速65km
行動距離520km
兵 装20mm機関砲×1
7.62mm機関銃×1
対戦車ミサイル
価 格1両あたり約1億円(当時)

ドイツ語で「テン(貂)」を意味する「マルダー」ですが、実は同じ名前の対戦車自走砲が第二次世界大戦時のドイツ軍で使われていたため、時を経て今度は歩兵戦闘車の名称として蘇ったといえます。

そんなマルダー歩兵戦闘車は1971年から西ドイツ軍への配備が始まり、レオパルト戦車に随伴できる車両として合計2,000両以上が生産されました。主武装として毎分1,000発の発射速度を持つ20mm機関砲を採用していますが、車内に搭載できる弾薬数は1,250発ほどです。また、副武装として抜群の信頼性を誇るMG-3機関銃を5,000発分の弾薬とともに搭載しているうえ、対戦車ミサイルも設置することで火力を大幅増強しています。ただ、この対戦車ミサイルの予備弾(4発)を車内に収容した影響で運べる兵員数が当初の7名から1名減となりました。

兵員輸送を目的とする本車は主武装と同じ20mm弾にも耐えられる装甲が施され、NBC兵器(放射能、生物、化学)に対する一定の防護力も付与されました。このように高い火力と防御力を兼ね備えたマルダーはアメリカ軍のブラッドレー歩兵戦闘車や陸自の89式装甲戦闘車の開発にも影響を与えており、実際に設計や武装の面で似ている点は多いです。

ドイツ軍で運用中の最新型「マルダー1A5A1」(出典:ドイツ連邦軍)

西側諸国の設計思想にも影響を与えたマルダー歩兵戦闘車はいくつかの改良型が登場し、防御力の強化や赤外線装置の追設による射撃性能の向上が行われました。現在の最新型は「マルダー1A5A1」と呼ばれるバージョンですが、これはIED(即席爆弾)対策の強化に加えて、兵士たちが長年待ち望んだエアコンが設置されました。マルダーは初実戦のアフガニスタン戦争でタリバンと戦闘を繰り広げましたが、実際に使った兵士たちは本車の性能を高く評価する一方で、エアコンがないのが過酷だったと回想しているので、この改良は教訓を反映したものと言えるでしょう。

時を経てウクライナの地で仮想敵と対峙へ

マルダー歩兵戦闘車は後継として「マルダー2」なる車両が開発予定だったものの、試作車の製造を行った後に1992年に中止となりました。そのため、前述の改良を重ねながら今もドイツ軍で350両以上が現役のままですが、新たな後継「プーマ装甲歩兵戦闘車」に徐々に置き換えられつつあります。しかし、このプーマは演習中に不具合が発覚したことで2022年12月にドイツ軍が新規調達を中止しました。不具合が解消すれば調達再開もあり得ますが、現状ではマルダーを引き続き使う以外に選択肢がありません。

また、マルダーは中古車でも大変人気があり、チリやインドネシア、ヨルダンにも納入された実績を持ちます。他にもギリシアに納入予定でしたが、この分はロシアの侵攻を受けるウクライナに回る可能性が高いです。2022年に始まったロシア=ウクライナ戦争では西側諸国の各種兵器がウクライナに供与されてロシア軍を敗退に追い込んでいますが、実はマルダー歩兵戦闘車も早い段階から武器支援リストの候補には上がっていました。

しかし、ロシアの反応を警戒して当初のドイツはウクライナ支援に消極的だったのでこの話は一旦立ち消えとなりました。その後、ウクライナ側の善戦が続き、エネルギーにおけるドイツの対露依存度が下がると、ドイツも武器支援要請に応じるようになり、PzH2000自走榴弾砲や「100発100中」の働きを見せたIRIS-T防空ミサイルを供与しました。そして、2023年に入るとマルダー歩兵戦闘車の話が再び浮上し、約40両を供与することが決まったのです。ちなみに、アメリカもブラッドレー歩兵戦闘車をウクライナに供与するのでソ連軍を見据えて冷戦期に開発された2つの歩兵戦闘車が時を経てロシア軍の運用する旧ソ連兵器と戦うことになります。

⚪︎関連記事:大人気!レオパルト2戦車の強さとは

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