後継ぎ?LRASM対艦ミサイル

アメリカ軍
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傑作ハープーンの後継を目指すステルス・ミサイル

対艦ミサイルの定番といえばハープーン・ミサイルですが、このベストセラーの後継を目指して近年登場したのが「LRASM(ロラズム)」と呼ばれるステルス巡航ミサイルです。長射程かつ敵の防空能力を突破できる能力を追求して開発されたこの新型ミサイルについて見ていきましょう。

⚪︎基本性能:LRASM

重 量1,100〜2,000kg
全 長約4.3m
弾 頭450kg
速 度亜音速(時速900km程度?)
射 程空中発射型:約900km
水上発射型:約560km
価 格1発あたり約4億円

LRASMは「Long Range Anti-Ship Missile(長射程対艦ミサイル)」の略で、同じく長射程の対地ミサイルである「JASSM(統合空対地スタンドオフミサイル)」の派生型となる最新の対艦ミサイルです。従来のハープーンを凌駕する長射程と弾頭重量が特徴ですが、これは敵の射程外から放って確実に敵艦を葬る意志を反映したもの。冷戦後は仮想敵国のソ連も消えたことで対艦攻撃能力についてはアメリカも「サボり気味」でしたが、その間に中国海軍が防空を含めた各種能力を大幅に増強した結果、従来のハープーンやトマホークでは心許ない状況となりました。

こうした背景をもとに開発されたLRASMはステルス性を高めた設計に加え、なるべく電波や排熱を出さない工夫を凝らすことで被探知率の低減と生存性向上を目指しました。したがって、誘導も自ら電波を出して探知するのではなく、あくまで敵の電波や味方からの情報を受信して向かうパッシブ方式になります。

敵のレーダー波を捉える受信機、画像赤外線やGPS誘導を組み合わせた複合レーダーを持つLRASMは妨害に対する抗堪性を高めたうえ、データリンク機能を駆使した複数による連携攻撃や発射後の情報更新と軌道修正が可能です。仮に何らかの原因でGPSやデータリンクの接続が断たれても、内蔵された測位システムを使って目標に向かい続けます。この測位システムは自律飛行を可能にするのみならず、AI機能を用いることで誤爆を避ける確実な識別や動く目標の具体的な部分まで狙える精密攻撃を実現しました。

B-1爆撃機から空中発射されるLRASM(出典:アメリカ空軍)

ここで気になるのは「亜音速の巡航ミサイルがまだ通用するのか?」という点。

確かに、低速の巡航ミサイルは比較的迎撃しやすいですが、それでも未だ有効な兵器であることに違いありません。例えば、ロシア=ウクライナ戦争ではウクライナ側が放った2発の対艦巡航ミサイルがロシア海軍の巡洋艦「モスクワ」を撃沈しており、亜音速の巡航ミサイルが決して過去の遺物ではないことを示しています。

米豪が運用する一方で、日本は導入中止に

LRASMは航空機と艦船の両方で運用しますが、どちらの場合でも発射後は中高度をしばらく飛行した後、海面スレスレの低空飛行に移って探知を避けます。航空機ではB-1爆撃機や空母艦載型のF/A-18戦闘機、F-35ステルス戦闘機などに搭載されますが、空中発射の方が距離を稼げるので射程面では有利といえます。一方、艦船の場合は海上自衛隊の護衛艦にも装備されているミサイルの垂直発射基(VLS)で運用可能であり、開発元のロッキード・マーチン社は潜水艦搭載型も検討しているそうです。

ちなみに、LRASMは米海軍が運用中であるものの、ライバルとしてノルウェー産のNSMミサイルが存在するため、ハープーンの後継として安泰とまでは言えません。同じくステルスかつ長射程のNSMは既に沿海域戦闘艦(LCS)の対艦攻撃兵器として採用されており、次期フリゲート艦のコンステレーション級にも搭載されます。したがって、今後も両者はトマホークのアップグレード版も交えながら激しい受注競争を繰り広げるでしょう。

一方、世界に目を向けてみるとLRASMはアメリカ以外ではオーストラリアも導入を決めており、日本も一時期は導入に向けて本格検討していました。日本の場合は近代化改修した航空自衛隊のF-15戦闘機で運用することを模索しましたが、機体改修にかかるコスト見積りが当初の3,000億円から5,500億円に高騰したことから導入を中止しました。莫大な費用をかけてまで無理にLRASMを買わずとも、今後開発される12式地対艦ミサイルの能力向上型で代用できると考えた結果でしょう。ただし、同じくF-15向けに検討していた対地ミサイルのJASSM-ERは予定通り購入します。

台湾有事で中国軍を撃破する本命兵器?

このように日本が導入を断念したLRASMですが、実は台湾有事では中国海軍を撃破するための切り札として期待されている兵器でもあります。アメリカの有力シンクタンクCSISが出した台湾有事のシミュレーションでは、スタンドオフ攻撃能力を有するLRASMが防空能力を高めた中国軍とその兵站支援能力を壊滅させるうえで欠かせないと分析しました。

具体的には、24発もLRASMを搭載できるB-1爆撃機を安全なアメリカ本土から出撃させて中国海軍に対して長距離攻撃を行うというものですが、残念ながらLRASMは生産数が少なく、シナリオでも数が足りないとされています。したがって、配備数こそ多いものの、本来は対地攻撃に用いられるJASSM-ERを対艦攻撃にも投入する可能性が探られました。実際のところJASSM-ERが対艦攻撃能力を持つのかどうかは不明なので、同シナリオが描く将来を見据えてLRASMの生産を早急に強化すべきでしょう。

⚪︎関連記事:ステルス?NSM対艦ミサイルの威力

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