自衛隊初の空母「いずも型」の実力

海上自衛隊
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海自の最大艦艇は長年の悲願だった初空母へ

帝国海軍の末裔たる海上自衛隊は長年にわたって空母建造構想を抱いていましたが、2000年代に初の全通甲板式の護衛艦で事実上のヘリ空母である「ひゅうが型」が登場すると、さらに大型化および発展させたヘリ空母「いずも」「かが」の2隻が建造されます。今やイージス艦と並んで海自の顔となった「いずも型」は海自最大の艦艇であるとともに、改修によって固定翼機の運用能力を獲得した正式な「空母」となったことで自衛隊の歴史にその名を刻みました。

⚪︎基本性能:「いずも型」護衛艦(空母化改修前)

排水量 基 準:19,950t
満載時:26,000t
全 長248m
全 幅38m
速 力30ノット(時速55.6km)
乗 員470名
兵 装20mm CIWS×2
11連装対空ミサイル発射機×2
魚雷防御装置
艦載機SH-60K哨戒ヘリ× 7
MCH-101輸送救難ヘリ× 2
※最大搭載数は14機
建造費1隻あたり約1,100億円

「いずも型」護衛艦は全長約250mという巨大な艦体が特徴的ですが、これは真珠湾攻撃やミッドウェー海戦にも参加した旧日本海軍の正規空母「蒼龍」よりも大きく、広大な飛行甲板にはヘリコプター・スポットが5つも設けられたことで5機の同時運用が可能です。

艦載機は最大で14機を搭載できますが、これを支える格納庫は整備機能も備わっているので海に浮かぶ航空基地としての役割を担い、周辺を警戒する哨戒ヘリを常に飛ばせる体制を確立するなど、海自の対潜哨戒能力の飛躍的な向上に寄与しています。

5機が同時駐機できる「いずも」(出典:海上自衛隊)

このように高い航空運用能力を持つ反面、巨大な船体がもたらす機動性の限界を考慮して戦闘への直接参加は想定されておらず、護衛の随伴を前提としていることもあって、戦闘能力は最低限の自衛機能に抑えられています。その代わり、通信設備や戦闘指揮システムの拡充を図ることで従来とは比べものにならないほど司令部機能が強化され、艦隊旗艦の務めを十分果たすことが可能となりました。

他にも、大型トラック50台と人員400名を輸送する能力、汎用護衛艦3隻分の洋上補給能力、そして集中治療室や手術室を含む35床の病室を備えており、船体の大きさを生かして他の艦艇では不可能なマルチ能力を実現しました。これらのおかげで「いずも型」は離島防衛でミニ・強襲揚陸艦として活動できるうえ、格納庫には野戦病院も設置できるので状況によっては小さな病院船としても使えます。

戦闘機運用に向けた空母化改修と課題

さて、海自初の空母として改修された「いずも型」ですが、空母化の噂は就役前から存在しており、特に格納庫と飛行甲板を結ぶエレベーターがF-35Bステルス戦闘機を載せられる大きさであった点が様々な憶測を呼びました。先に登場したヘリ空母「ひゅうが型」が明らかに軽空母保有への布石と見られたことから、一旦はヘリ空母として建造したものの、その後は国内世論や周辺国の反応を踏まえながら、約30年の就役期間のどこかで改修するつもりだったのでしょう。

しかし、中国海軍の急激の増勢によって空母化は当初計画よりも大幅な前倒しとなり、「いずも」が就役してからわずか3年後の2018年にF-35Bの搭載に向けた改修が決定されました。そして、このように正式に空母となった「いずも型」は主に4つの改修を受けました。

(1)F-35B戦闘機の排熱を想定したた甲板の耐熱強化
(2)誘導灯の設置(夜間時の着艦に必要)
(3)艦首を台形から四角形に変更
(4)艦内区画の見直し(空母運用に適した配置の確保)

上記からも分かるように、空母化にあたってはソナーがある艦首の重量が増えて全体バランスが悪くなることからマンガ「空母いぶき」でみられるようなスキージャンプ台は設置されませんでした。イギリスの空母「クイーン・エリザベス」でも採用されたスキージャンプ台は航空機の発艦を補助するものの、その面積分だけ航空機の駐機スペースが減るため、「いずも型」は採用せずに艦首を四角形に改修して滑走距離と駐機スペースの両立を図ります。

ほぼ同じ全長と四角形艦首を持ち、スキージャンプ台を採用しなかった米海軍の「アメリカ級」強襲揚陸艦が同じF-35Bを運用している事実を考える、同盟国アメリカから空母運用のノウハウを学ぶ海自が同国の強襲揚陸艦を参考にしたと推測できます。

台形の艦首だと滑走距離が短くなる(出典元:海上自衛隊、筆者加工)

これら空母化改修は2025年には完了する見込みで、計42機が調達される艦載機のF-35Bは2024年に宮崎県の新田原基地への配備が始まります。また、気になるF-35Bの搭載機数については、単に載せるだけならば最大15機ほどは可能なものの、戦闘機以外にも哨戒ヘリなども搭載せねばならず、実際の運用では任務によってそれぞれの搭載数を増減させます。

さらに、水上艦のレーダーは水平線の影響で遠方まで探知するのが難しく、早期警戒機による支援が必要となるため、米海軍の原子力空母は固定翼機のE-2警戒機を、イギリスの「クイーン・エリザベス」は早期警戒ヘリを運用しています。しかし、「いずも型」は早期警戒機に関する話が出ていないので具体的にどうするのかは不明ですが、以下の可能性が考えられます。

(1)陸上基地から飛来する航空自衛隊の早期警戒管制機に頼る
(2)イギリスの空母と同様に早期警戒ヘリを導入
(3)V-22オスプレイの早期警戒型「EV-22」を導入


ちなみに「空母いぶき」では艦載型の早期警戒機を運用している様子は見られず、(1)のように空自に頼っていたと思われますが、現代戦で勝敗を分ける早期警戒能力に冗長性を持たせるためにも自前の早期警戒機はやはり必要でしょう。残りの選択肢については、V-22オスプレイは「いずも型」で問題なく運用できるものの、肝心のEV-22は開発すら始まっていないので現状では(2)の「早期警戒ヘリ」が最も現実的な選択といえます。

練習空母、そして海軍外交を担う海自の「顔」

F-35Bの搭載によって「いずも型」は軽空母もしくは護衛空母の仲間入りを果たし、有事では南西諸島方面に航空戦力を投入したり、防衛上の空白地帯となっている大東諸島〜小笠原諸島のエリアをカバーする重要な役割を担います。

一方、悲願の初空母は運用面では海自にとって「初めて」の連続であることから中国海軍の空母「遼寧」と同様に将来的に建造されるであろう次期空母に向けてノウハウを蓄積する「練習空母」という意味合いもあります。「おおすみ型」輸送艦から着々と空母保有の布石を打ってきた海自が「いずも型」の改修でその歩みを止めるとは考えづらく、むしろ空母「いずも」「かが」で改善点を洗い出した後、情勢に応じて次期空母案を検討すると思われます。

ただ、深刻な人手不足に苦しむ海自がもっと本格的な空母を運用できるかは怪しく、限られた人員と予算を効果的に使うならば潜水艦と多機能フリゲートを増やした方がよい気がします。いずれにせよ、当面は「いずも型」でノウハウを蓄積しながら本格的な空母導入の是非を十分に議論すべきでしょう。

こうした練習空母的な位置付けのほかに、今や海自のシンボルとして扱われている「いずも」「かが」の両艦は交代で南シナ海やインド洋に派遣することで日本のプレゼンスを示す外交官的な役割も担ってきました。これは改修された後も実施される予定で、戦後初の日本空母が南シナ海やインド洋を航行しながらアメリカ、オーストラリア、インドなどと共同訓練を行う意義はとてつもなく大きく、中国を含む周辺地域にメッセージを送るという点では他の護衛艦にはできない役割を果たします。

⚪︎関連記事:空母化は無理?ひゅうが型護衛艦

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