多機能なFFM、「もがみ型」護衛艦とは

海上自衛隊
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全く新しいコンセプトのフリゲート艦

急拡大する中国海軍への対処を迫られている海上自衛隊は従来の護衛艦とは異なる多機能および省人化をコンセプトにした「もがみ型」の量産を通じて戦力を確保する狙いですが、これは限られた人的資源をやり繰りして護衛艦の稼働数を増やすための全く新しい試みといえます。

○基本性能:「もがみ型」護衛艦

排水量 3,900t(基準)
全 長133m
全 幅16.3m
速 力30ノット(時速55.6km)
乗 員90名
兵 装62口径5インチ砲×1
垂直ミサイル発射基(VLS)16セル
防空ミサイル11連装発射機×1
17式対艦ミサイル発射筒×8
3連装短魚雷発射管×2
遠隔操縦型12.7mm機関銃×2
搭載機SH-60K哨戒ヘリ×1
同型艦12隻
建造費1隻あたり約460〜500億円

かつて「30FFM」と呼ばれた「もがみ型」は掃海部隊が担ってきた機雷戦機能を付与することで事実上の多機能艦となり、「FFM」という艦種記号もフリゲートを指す「FF」に機雷戦(Mine)や多目的(Multi)の「M」を加えたものです。明らかにステルス性を意識したその見た目は従来型の護衛艦とは全く異なり、むしろ設計思想的にはアメリカ海軍の沿海域戦闘艦(LCS)から影響を受けた様子が伺えます。

まず、「もがみ型」で目を引くのが乗員の少なさで、通常の汎用護衛艦が約150〜200名の乗員を要するのに対して本艦は新たに機雷戦能力が追加されたにもかかわらず、自動化と無人化によって乗員数は従来の2/3程度となっています。

特に画期的なのが「統合艦橋システム」および「統合管制システム」であり、前者によってわずか3人での操艦を可能としつつ、後者で今まで艦橋やソナー室に分かれていた複数の機能を戦闘指揮所(CIC)に集約して効率化させました。さらに、3隻に4組のクルーを配置する「クルー制」が海自で初めて導入されたことでメンテナンスや修理以外の停泊期間を短縮して稼働率向上を図ります。

クルー制のイメージ(筆者作成)

装備については、当初はコンパクト化を重視して最低限のものに抑える予定だったものの、船体の大型化にともなって垂直ミサイル発射基(VLS)の搭載をはじめとする各種装備の拡充が図られました。その結果、個艦防空能力と対水上戦能力は汎用護衛艦と変わらない充実ぶりとなったうえ、対機雷用ソナーや機雷敷設装置、水上・水中無人機を搭載することで機雷戦能力も獲得しました。ただし、VLSについては「もがみ」「くまの」は就役時は搭載しておらず、後で追設される予定です。

もがみ型護衛艦の装備(出典:防衛装備庁)

「もがみ型」に求められる役割とは?

さて、冒頭で「もがみ型」は米海軍の沿海域戦闘艦を参考にしたと述べましたが、この沿海域戦闘艦が事実上の失敗作に終わったことで「もがみ型」も同様に失敗作になると危惧する声がありました。しかし、沿海域戦闘艦は小型で多機能というコンセプトの下、対テロ戦や海賊対策などの新たな脅威にも対応できるものとして誕生したものの、建造コストが高騰したうえ、中国の台頭によって再び正規戦を想定しなければならなくなったため、予定よりも少ない数で建造が打ち切られた経緯があります。

一方、「もがみ型」も建造コストが大幅に高騰すれば話が別ですが、現時点ではそのような点は見られず、毎年2隻の建造によってむしろ建造費の抑制に成功しています。ただし、当初は計22隻を建造する予定だったのが、2024年度からは新たなFFM(次期フリゲート艦)に移行するため、最終的に建造される「もがみ型」は12隻となります。それでも、正規戦に十分対応できる能力を持ち、省人化・クルー制によって稼働率を上げることに成功した本艦は決して失敗作の烙印を押される存在ではありません。

そんな「もがみ型」は普段から日本周辺の警戒監視活動に従事しつつ、海賊対策などの海外派遣任務にも派遣することで汎用護衛艦の負担を軽減できます。また、機雷戦能力を持つので将来的には掃海部隊を縮小して、余剰人員を護衛艦や潜水艦部隊に充てる狙いもありそうです。そして、あらゆる状況に柔軟に対応できる「もがみ型」のマルチ能力は、有事では武装漁民による離島占拠などのグレーゾーン事態の対処から対潜戦・機雷戦に至るまでの幅広い任務に充てられるでしょう。

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