新しいコンセプトのフリゲート艦
急拡大する中国海軍への対処を迫られている海上自衛隊は、それまでの護衛艦とは全く違う多機能・省人化をコンセプトにした「もがみ型」を量産しました。
これは限られた人的資源をやり繰りしながら、護衛艦の稼働率を増やす新しい試みといえます。
○基本性能:「もがみ型」護衛艦
排水量 | 3,900t(基準) |
全 長 | 133m |
全 幅 | 16.3m |
速 力 | 30ノット(時速55.6km) |
乗 員 | 90名 |
兵 装 | 5インチ速射砲×1 垂直発射装置(VLS)×16 防空ミサイル11連装発射機×1 対艦ミサイル×8 3連装短魚雷発射管×2 12.7mm機関銃×2 |
建造費 | 1隻あたり約460〜500億円 |
かつて「30FFM」と呼ばれたこの新型護衛艦は、多様化する任務に対応できる能力を持つ多機能艦であり、「FFM」という艦種記号もフリゲートを指す「FF」に機雷戦(Mine)と多目的(Multi)の「M」を加えたもの。
ステルス重視のデザインのおかげで、従来の護衛艦とは異なる外観をしていて、どちらかというと米海軍の沿海域戦闘艦(LCS)に近い印象を受けます。
また、汎用護衛艦の乗員数が約150〜200名なのに対して、「もがみ型」は護衛艦として初めて機雷戦能力も追加されたにもかかわらず、自動化・無人化によって半分以下に抑えました。
この省人化で特に画期的なのが「統合艦橋システム」「統合管制システム」というものです。前者はたった3名での操艦を実現しており、後者は今まで艦橋とソナー室に分かれていた機能を戦闘指揮所(CIC)に集約・効率化しました。
さらに、3隻に4組のクルーを配置する「クルー制」が初めて導入されたため、メンテナンスと修理以外の停泊期間を短縮して稼働率を高めています。

装備については、当初はコンパクト化を重視して最低限のものに抑える予定だったところ、船体の大型化にともなって垂直発射装置(VLS)の搭載をはじめとする各種装備の拡充が図られました。

その結果、個艦防空能力と対水上戦能力は汎用護衛艦と変わらない充実ぶりとなったうえ、対機雷用ソナーや機雷敷設装置、水上・水中無人機を搭載することで機雷戦能力も獲得しました。
ただし、VLSについては5番艦「やはぎ」までは就役時に搭載しておらず、後で追設予定です。
「もがみ型」に求められる役割
さて、冒頭で「もがみ型」は米海軍の沿海域戦闘艦を参考にしたと述べましたが、この沿海域戦闘艦が失敗作に終わったため、「もがみ型」も同様に失敗作になると危惧する声がありました。
しかし、沿海域戦闘艦は対テロ戦や海賊対策などの新脅威にも対応できる多機能艦として誕生したものの、建造コストの高騰に加えて、中国の急台頭で正規戦に回帰せざるを得なくなった経緯があります。
「もがみ型」も建造費が高騰すれば別ですが、現時点ではそのような問題は見られず、むしろ毎年2隻の建造を通じてコスト削減に成功しました。
ただし、当初は計22隻を建造する予定だったところ、2024年度からは新たなFFM(次期フリゲート艦)に移行するので、最終的に建造される「もがみ型」は12隻となります。
それでも、正規戦に対応できる能力を持ち、省人化とクルー制によって稼働率を上げた「もがみ型」は決して失敗作ではありません。
そんな「もがみ型」は普段は日本周辺の警戒監視活動に従事しつつ、海賊対策などにも派遣することで汎用護衛艦の負担を軽減できます。
さらに、機雷戦能力を持つので将来的には掃海部隊を縮小して、余剰人員を護衛艦や潜水艦部隊に充てる狙いもありそうです。
有事においても、「もがみ型」が誇る柔軟なマルチ能力は、武装漁民といったグレーゾーン事態から対潜戦・機雷戦に至るまでの幅広い任務での活躍が見込まれます。
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