海保の新型巡視船「しゅんこう型」

海上保安庁
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コスパ重視の大型巡視船として

「海猿」でも有名な海上保安庁は救難活動のイメージが未だ強いですが、本来は海洋警察力として日本周辺の海を守るのが任務であり、尖閣諸島周辺の海域で常に中国側と対峙しているのも海保になります。しかし、強大な国力と潤沢な予算を背景に増強される中国海警局に対して、海保は限られた予算と人員で対抗せねばならず、正直かなり厳しいのが現状です。

そこで海保は尖閣諸島周辺のパトロールを担当する専属部隊を立ち上げ、石垣島に12隻の巡視船を配備しました。ただ、それでも中国海警局は船の数を年々増やすのみならず、大型化と重武装化の傾向も見られ、お役御免となった中国海軍の退役軍艦も戦力に編入する有様です。

そのため、海保も大型巡視船の保有が急務となっており、6,500トン級の「あきつしま」や「れいめい型」を相次いで建造したものの、これらは予算を圧迫する諸刃の剣でもあるので、もっとコスパの良い船が求められました。そこで登場したのが新型巡視船「しゅんこう型」になります。

⚪︎基本性能:「しゅんこう型」巡視船

排水量6,000t (基準)
全 長140m
全 幅16.5m
乗 員56名
速 力25ノット
(時速46.3km)
装 備40mm単装機銃×1
20mmバルカン機銃×2
艦載機EC225ヘリ×2
価 格1隻あたり約170億円

「しゅんこう型」は中国海警局の増勢に対抗しつつ、尖閣方面の警備と大型巡視船を要するその他事案に同時対応できる体制を目指す一環で建造されました。冬の季語にあたる「春光」から名付けられた1番艦は2020年2月に就役し、南西諸島方面をにらむ鹿児島に配備されています。現在、2番艦「あさなぎ」が建造中であり、少なくとも3番艦までの建造が決まっているそうです。

見た目は「れいめい型」と似ているものの、「しゅんこう型」の方がひと回り小さく、船体も軍艦構造を採用した「れいめい型」に対してコストで有利な商船構造に準じたものになっています。ここで注意したいのが「商船構造=弱い」ではないこと。軍艦構造と商船構造はあくまで「規格」の違いであり、軍艦構造だから装甲が分厚くて強いとは限りません。商船構造も国際規格に基づいているので長期航海をするうえでは全く問題なく、比較的な廉価な商船構造を採用した軍艦は多数存在します。

武装を含む能力と建造コストのバランスを重視した「しゅんこう型」(出典:海上保安庁)

武装として40mm機銃を1基と20mmバルカン機銃を2基搭載していますが、前者については「れいめい型」よりも1基少ないです。他にも、遠隔操作式の放水銃や停船命令を勧告する電光掲示板など、洋上で警察力を執行するための装備はひと通り揃っています。

また、警備艇を含む搭載艇の数も「れいめい型」より2隻減の計4隻となっていますが、これは全天候型救命艇を割愛したものと思われます。この全天候型救命艇は他国まで出向く国際航海を行う際に必要なため、本船は「しきしま」等とは異なり、遠隔地への展開を前提としておらず、あくまで日本近海での任務を見据えているのです。

とはいえ、日本近海での長期展開を想定していることから食糧などの物資を保管するスペースが他の巡視船よりも大きく、居住区の環境も比較的充実しているそうです。また、災害派遣時には洋上拠点としての活躍も期待されているので現地対策本部を設置する区画も設けられています。

さらに、他の巡視船への支援能力も付与されており、水や燃料、電力を供給できるほか、限定的ながら他船の乗員を一時休養させる母船機能も有します。このあたりは海上自衛隊の「いずも型」護衛艦と役割が似ており、いざという時は海保版の洋上基地になるのでしょう。

今のところ3隻目までの建造が決定している「しゅんこう型」ですが、高価な「あきつしま」や「れいめい型」とは違ってコストを抑えることである程度量産できるでしょう。「質」で対抗できる「量」にも限度があることは歴史が証明しており、質も量も向上させつつある中国側を前に海保も限られた予算の中から十分な数を確保せねばなりません。そのため、「しゅんこう型」は能力とコストの点でバランスが取れた巡視船として期待されているのです。

⚪︎関連記事:海保最強?れいめい型巡視船

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