防衛省御用達の高速フェリー
中国の海洋進出を受けて自衛隊は従来の北方重視から南西諸島方面にシフトしており、特に「離島防衛」を意識した部隊編成と装備調達を進めている最中です。
実際に離島防衛となれば日本版海兵隊である水陸機動団の出番になりますが、まずはこれら隊員と装備、物資を最寄の拠点まで海上輸送しなければなりません。
もちろん、C-2輸送機などを用いた空輸も行われますが、航空機は迅速に運べる一方で搭載量では船舶に遠く及びません。そのため、海上自衛隊の輸送部隊に頼ることになるわけですが、問題は海自の輸送艦艇が足りていない点。
現在、海自は3隻の「おおすみ型」輸送艦と1隻の輸送艇1号型を保有していますが、前者は就役から25年近く経っており、後者はまもなく退役する見込みです。
このように大規模な戦力を輸送するには輸送能力が不足していると言わざるを得ず、これを解消するために陸上自衛隊は独自の海上輸送部隊を持つ方針となりました。
※関連記事:陸上自衛隊の新型輸送艦艇?海上輸送部隊の役割とは
それでもロシア=ウクライナ戦争でも判明したように実際の戦闘では装備や弾薬など膨大な量の補給物資が必要なので、自衛隊の海上輸送能力だけでは支えきれない可能性があります。
そこで、防衛省は以前から民間船舶をチャーターすることで輸送力を補おうとしているのですが、特に御用達となっているのが高速フェリーの「ナッチャンWorld(ナッチャンワールド)」。
⚪︎基本性能:ナッチャンWorld
排水量 | 10,549t (満載時) |
全 長 | 112m |
全 幅 | 30.5m |
乗 員 | 不明 |
速 力 | 36ノット (時速66.6km) |
輸送能力 | トラック50台 乗用車100台以上 人員500名以上 |
価 格 | 約90億円 |
「ナッチャンWorld」はオーストラリアで建造された双胴型の大型フェリーで、海自の「はやぶさ型」ミサイル艇も採用したウォータージェット推進を使うことで35ノット以上という俊足を誇ります。
もともと青森-函館間の連絡船として就航していたものの、一度にトラック50台と一般乗用車100台以上を輸送できることから防衛省の目に留まり、訓練や災害派遣における自衛隊車両の輸送に活用されました。
自衛隊の輸送船として何度か借り上げられた一方、本来の就航路線では採算悪化によって徐々に使われなくなったため、本船の高速航行能力と搭載量を評価した防衛省は2016年に10年間チャーターする契約を結びます。
このとき、本船と別の大型フェリー「はくおう」が防衛省が借り上げるために作られた専用会社に移されて、自衛隊と在日米軍の輸送業務に就きました。これは民間会社を使って公共サービスを提供する「PFI(Private Finance Initiative)」の一種です。
90式戦車を載せる様子(出典:防衛省)
このように「半官半民」のような立ち位置となった「ナッチャンWorld」は乗組員を予備自衛官にしたり、ビジネスクラスの船室に2段ベッドを設置するなど自衛隊輸送を目的とした変更が加えられました。
また、左舷後部に新たに積み下ろし用のランプが設けられたことで、戦車の搭載が容易となり、専用岸壁も必要なくなったため、展開できる港の数が増えました。
演習時の借り上げでは90式戦車を北海道から九州まで問題なく輸送しており、戦車や装甲車などの重装備を十分運べる性能を示しました。
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