売れまくり?韓国のK9自走榴弾砲

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対北朝鮮を見据えた国産自走砲

「休戦中」で未だ戦争状態が続いている朝鮮半島では韓国と北朝鮮が38度線を挟んで対峙していますが、特に北朝鮮は軍事境界線付近に1万門以上の火砲を配置することで韓国側に常時脅威を与えている状況です。こうした火砲は韓国の首都ソウルも射程圏内に収めているため、韓国は都市の防空体制を整備するとともに、対抗手段として砲兵戦力の強化に力を入れてきました。その反撃手段の一つとなるのが韓国が誇る国産兵器であり、ポーランドやオーストラリアも購入した「K9自走榴弾砲」です。

⚪︎基本性能:K9 155mm自走榴弾砲

重 量47t
全 長12m
全 幅3.4m
全 高2.73m
乗 員5名
速 度時速67km
行動距離360km
兵 装・52口径155mm砲×1
・12.7mm機関銃×1
射 程通常弾:18km
ベースブリード弾:40km
発射速度毎分6〜8発
価 格1両あたり約4.5億円

「サンダー(雷鳴)」の異名を持つK9自走砲は1999年にデビューしましたが、現在も1,300両以上が韓国陸軍と海兵隊に配備されて陸軍大国・韓国の砲兵戦力を支えています。西側標準の155mm榴弾砲は射撃管制装置や自動照準装置、GPS機能を用いることで精密射撃に加えて、3発の砲弾を一つの目標に同時着弾させることが可能です。

また、最初の3分間は毎分6〜8分の連続射撃ができますが、それ以降は砲身の冷却も考慮して毎分2発程度になるそうです。ただ、砲兵戦では反撃を受ける前に陣地転換を行うため、全力射撃の持続時間は3分もあれば事足りるでしょう。ちなみに、陣地に展開して射撃準備を終えるまでに要する時間はわずか1分ほどですが、自動装填装置が付いていないので弾薬の装填は機械アシストを使いながら手動で実施します。

射撃するK9自走榴弾砲(出典:韓国軍)

射程距離は弾種によって変わりますが、通常の榴弾であれば18km、延伸型の榴弾を使えば40kmまで延伸可能です。これら弾薬は車内に合計48発分が収容されていますが、同時開発された専用の弾薬供給車「K10」を伴うことでその場で補給を得られます。104発分の弾薬を搭載するK-10弾薬供給車はベルトコンベアを使ってK9自走砲に自動補給するため、補給作業にかかる時間は5分程度だそうです。

防御力については、同じ155mm弾の至近弾や重機関銃の直撃に耐えられる設計となっており、NBC防護能力と自動消火装置も付与されました。そのため、以前運用していたアメリカ製のM109自走榴弾砲と比べて重量が倍増しましたが、それでも最高時速67kmという機動力を有します。

「欠陥」どころか、堅実な評価でベストセラーに

さて、開発時期と登場が陸上自衛隊の99式自走155mmりゅう弾砲とほぼ同じなことから同世代のライバルとも言えるK9自走砲は一部で「欠陥品」と見くびる向きがあります。これは初の実戦となった2010年11月の延坪島砲撃事件において反撃開始から5分間で4発しか放てなかったことに起因しています。

つまり、北朝鮮の攻撃に対して当初は有効な反撃ができなかったわけですが、後の調査では当該のK9自走砲は北の砲撃直前まで射撃訓練を行っていたことで弾薬が装填されておらず、初動対応が遅れたことが判明しました。また、完全な奇襲攻撃を受けたことで4両のK9自走砲のうち3両が序盤で損傷し、さらに悪いことに基地の電源が一時的に失われたことで対砲兵レーダーも同様にダウンしました。こうした不利な状況の中、K9自走砲は損傷しながらも乗員に死傷者を出すことなく、電源とレーダーの回復後は損傷車両も含めた4両で反撃しています。

予期せぬ実戦も経験したK9自走榴弾砲(出典:韓国軍)

延坪島砲撃事件で仮装敵の北朝鮮と一度砲火を交えたK9自走砲ですが、「K9A1」「K9A2」と呼ばれるアップグレード版も存在します。2018年から配備開始された前者は補助動力装置の導入や暗視装置や射撃管制装置の性能を向上させたタイプで、新たにロケット補助推進弾を使うことで射程も54kmまで延伸されました。

一方、K9A2は自動装填装置の導入によって発射速度を毎分9〜10発まで伸ばし、乗員数も5名から3名まで省人化されます。他にも、砲身寿命の延伸や装甲の強化、12.7mm機関銃の遠隔操作式への改良、そして乗員にとっては嬉しいエアコンの追設が行われる予定です。このK9A2は2027年に登場するようですが、実はその先を見据えた「K9A3」の計画が早くも発表されました。K9A3では自動化をさらに進めるとともに、滑空弾を採用することで射程を一気に100kmまで延伸するようですが、詳細はまだ不明です。

このように改良型も続々と登場予定のK9自走砲は実は海外でも高い評価を受けており、同じ韓国製のK2戦車とともによく売れている兵器の一つなのです。既にトルコ、エジプト、フィンランド、ノルウェー、エストニア、インド、オーストラリアといった国々が採用済みで、アジアから欧州に至るまでの幅広いセールスを展開しているのが分かります。そして、2022年にはポーランドが670両ものK9自走砲を注文する大型契約に成功しましたが、ロシアの脅威に超敏感で陸軍力の強化に邁進する同国が採用した意義は大きいでしょう。

もはや韓国にとってベストセラー兵器と言えるK9自走砲は、価格と性能のバランスが釣り合っているうえ、韓国側も輸出先の要求に応じて改良を行うなどの柔軟性を発揮することで契約成功にこぎつけています。技術の結晶である兵器を輸出する場合は、普通は輸出元から色々制約を受けることが多いのですが、韓国はあまり口を出さず、技術移転についても柔軟に対応しているようです。こうした姿勢が導入に対する政治的なハードルを下げ、相手国にとって購入しやすい環境を作り出すのでしょう。

⚪︎関連記事:実は優秀?韓国のK2戦車

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