「超」長距離の防空兵器
長距離地対空ミサイルの代名詞といえば、航空自衛隊も運用するアメリカの「パトリオット・シリーズ」が有名でしょう。
これに対するライバルとされているのがロシアが2007年に開発した「S-400」というもので、いわゆる「西側諸国」に該当せず、パトリオットを買えない国にとっての購入候補になります。
⚪︎基本性能:S-400地対空ミサイル
射 程 | 120〜400km ・中距離向け「9M96」:120km ・長距離向け「48N6」:250km ・超長距離向け「40N6」:400km |
高 度 | 約30km |
価 格 | ・1セットあたり 本国版:約300億円 輸出版:約650億円 |
ロシア語で「大勝利」を意味する「トリウームフ」の名を持ち、それまでの「S-300」より格段に高性能・長射程となったこの防空システムは、パトリオットと同じ陸上移動や空輸による機動展開を想定しています。
1セットあたり4連装のミサイル発射機、多機能レーダー、そして移動指揮所などを載せた計5両の車両で構成されます。
発射するミサイルは対処範囲によって種類が異なり、中距離向けの「9M96(射程120km)」であれば1つの発射機に16本も装備できる一方、長距離以上の大型ミサイルは4本しか搭載できません。
それでも、超長距離用の「40N6」は、パトリオットの2倍以上にあたる400kmもの射程を誇り、最新センサーと情報共有能力を駆使すれば、弾道ミサイルの限定的迎撃も可能です。
ただし、これらミサイルは爆散する破片で目標撃墜を狙う仕組みで、パトリオットのように物理的に直撃する方式はでありません。そのため、ロシアは弾道ミサイル迎撃能力をさらに高める目的で、弾頭直撃型の「77N6」を開発中とされています。
このように「S-400」は異なるミサイルの統合運用を通じて、航空機から巡航ミサイル、弾道ミサイルまで対応できる柔軟性と射程距離が「セールス・ポイント」なのです。
イージス並みの同時対処能力
さて、この優れた防空システム支える多機能レーダーは、最大600km先を探知して、100個近い目標を検出できるうえ、一部はステルス機も捉えられると言われています。
また、6つの目標に同時対応できる「多目標対処能力」を持ち、複数のセットを組み合わせれば、その交戦可能数をさらに増やせるそうです。この特徴もふまえると、イージス艦にも近い防空能力を期待できるといえます。
実戦での被害と限界
現存する防空システムとしては優秀かつ超長射程の部類に入ることから、ロシアの同盟国・友好国にも輸出されました。それは中国やベラルーシ、インドのみならず、NATO加盟国のトルコにまで及びます。
ところが、このトルコの「S-400」購入はアメリカとの関係悪化を招き、結果的に同国へのF-35ステルス戦闘機の売却が中止されました。もともとトルコはアメリカのPAC-3を希望していたものの、技術移転を巡って折り合いがつかず、その間に「S-400」購入を進めたことで破談となったわけです。
展開する「S-400」(出典:ロシア国防省)
そんな一部で人気のある「S-400」は、ロシア=ウクライナ戦争に投入されて戦果を挙げる一方、撃破されるケースも確認されています。
例えば、重要拠点のクリミア半島に5基の「S-400」が配備されましたが、ウクライナが開発したネプチューン対艦ミサイルの対地攻撃型によって2基も破壊され、防空能力が半減しました。
さらに、ストーム・シャドウ巡航ミサイルで攻撃するウクライナ軍に対して、意外にも「S-400」は迎撃に失敗しており、ロシア海軍の司令部と艦船が大きな損害を受けました。
「S-400」が高性能な長距離防空システムであるのは否めませんが、高高度から飛んでくる巡航ミサイルにすら対応できず、逆にウクライナ軍のパトリオットが狙われつつも、いまだに破壊されていない点を考えると、その差が目立ちます。
この戦争ではロシア兵器が喧伝されていたほどの実力を発揮していないケースが多く、「S-400」もこうした一例なのかもしれません。
決して「恐るるに足らず」になってはいけませんが、どの国も自国兵器の性能を多少なりとも誇張する傾向があって、ロシアの場合はそれが顕著なのも事実。
いずれにせよ、国内向けでも300億円、海外輸出版になると600億円を超えるこの防空兵器の失態が続けば、購入を考えなおす国も出てくるでしょう。
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