陸自で現役の旧式防空ミサイル
陸海空の各自衛隊において「防空」は極めて重視されていますが、上空からの攻撃に特に弱い陸上自衛隊は、さまざまな地対空ミサイルを保有しています。
そのなかで最も古く、陳腐化が進んでいるにも関わらず、未だに運用されているのが「地対空誘導弾・改良ホーク」です。
⚪︎基本性能:地対空誘導弾・改良ホーク
全 長 | 5.08m |
直 径 | 0.37m |
重 量 | 590kg |
速 度 | 最大マッハ2.4 (時速1,840km) |
高 度 | 18,000m |
射 程 | 45〜50km |
そもそも、ホーク・ミサイルはアメリカが1960年代に使い始めた中距離地対空ミサイルで、名前は察しのとおり「鷹(Hawk)」にあやかっています。ただし、本当は正式名称の「 Homing All the Way Killer(最後まで追尾して仕留める者)」を略したものです。
開発当時は画期的な防空システムだったので、NATO諸国を中心に多くの国で使われ、イスラエルとクウェートが導入したものは実戦で敵戦闘機を撃墜しました。
現在の地対空ミサイルと比べると、ホーク・ミサイルそのものはかなり大きく、発射筒には収まらないことから、むき出し状態で発射機に載せるスタイルです。この発射機には通常3発のホーク・ミサイルを搭載して、遠隔操作しながら目標の方角に発射します。
ほかにも、探知レーダーや射撃管制装置などが必要ですが、どれも車両牽引式であるため、移動展開ができる防空システムになりました。
誘導方式には「セミ・アクティブ方式」を採用していて、イルミネーターと呼ばれるレーダーが目標に電波照射を行い、それに基づいてミサイル本体を導きます。しかし、「同時誘導数=イルミネーターの数」という仕組みなので、複数目標への同時対処は期待できません。
改良ホークを準備する陸自隊員(出典:アメリカ国防省)
老朽化にともなってアメリカでは2002年に全て退役した一方、1960年代に導入した陸自では改良型、つまり改良・ホークが今も使われている状況です。
この改良型に3つのタイプがあり、現在使われているのは電波妨害への耐性を高めた「改良II型」、そして目標までの距離測定や射撃全般に関する統制機能をひとつに集約した「改良Ⅲ型」の2つです。
どちらも初期型よりは防空範囲と低空目標に対する迎撃能力が向上しているものの、半世紀前に開発された事実は変わらず、これ以上の改良・能力向上は望めません。
お金がなくて進まない後継調達
では、なぜこの旧式ミサイルを使い続けているのか?
答えはいつも通り「お金がないから」です。
改良ホークの後継については、あの米軍ですら「優秀」と評価する03式中距離地対空誘導弾とそのさらなる改良型を調達中です。ところが、1個中隊分を揃えるのに約150億円かかることから、全ての高射部隊に行き届いていません。
よって、一部では改良ホークを引き続き使わざるを得ず、最新脅威への対処能力が危ぶまれています。それでも機関砲に頼るわけにはいかず、旧式でも「ないよりはマシ」なのです。
「ある」と「ない」ではあった方が当然よい(出典:陸上自衛隊)
旧式といえども、中距離地対空ミサイルが展開するだけで、敵に心理的な悪影響を与えたり、行動の自由をある程度は制約できます。
実際、ロシア=ウクライナ戦争ではウクライナの防空能力の早期強化すべく、アメリカは倉庫で眠っていたホーク・ミサイルを引っ張り出してきました。
同じく供与されたNASAMS防空ミサイルと比較して、古いホーク・ミサイルがどこまで役立ったかは分かりませんが、前述のように「ないよりはマシ」だったはず。
発射しなくても、戦場にいるだけで「撃墜されるかもしれない」という漠然とした不安を与え、一定の抑止効果は期待できます。半世紀前の古いミサイルでも、航空機を念頭に開発されたことは変わらず、ナメてかかると痛い目に合うかもしれません。
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