戦場の「目」として必須
いまや無人機(ドローン)は現代戦では欠かせず、情報収集から自爆攻撃にいたるまで、あらゆる任務に投入されてきました。ロシア=ウクライナ戦争をみると、それは使い捨ての装備品であって、数千〜数万機単位で消耗されています。
では、実際の戦闘ではどのような位置付けなのか?
まず、偵察から戦果確認までの流れにおいて、ドローンは戦場の「目」として役立ち、特に砲兵の着弾観測では必須になりました。航空機よりは探知されづらく、人員喪失の心配がないことから、小型ドローンは偵察活動にぴったりです。
ドローンを飛ばす兵士(出典:アメリカ海兵隊)
一方、自爆型(FPV)は戦車や装甲車、兵士に突っ込み、対車両・対人の両方で猛威をふるってきました。無防備に開けた地形を進むと、すぐにFPVドローンが飛来するため、もはや白昼堂々の行軍はできません。
さはさりながら、攻撃手段の「主役」とまではいえず、戦果の大部分も損傷、遺棄装備に対する攻撃など、トドメを刺す「補助兵器」という扱いです。
しかも、ドローンの遠隔操作にあたって、操縦手は周波数帯域の制限に悩み、前線では混線と相互干渉が頻発してきました。限られた周波数帯を奪い合うなか、敵のジャミングも入り、悪天候では行動が大きく制限されます。
このような実態を受けてか、アメリカはドローンを重視しながらも、攻撃の主軸は榴弾砲などの火砲、機動打撃力に長けた装甲戦力に置き、決して主役扱いはしていません。
あくまで現場の火力不足、火力ギャップを埋める補完手段にすぎず、徘徊型の自爆ドローンについても、ミサイルに代わり得る新兵器ではなく、低速・安価な代替品という感じです。
ロシアもナゴルノ=カラバフ紛争、ウクライナの経験に基づき、ドローンは偵察や囮(おとり)、補助攻撃には使うものの、いまだ本命は火砲の集中運用です。
以上のように、戦場での偵察・砲兵観測では有効性を持ち、攻撃手段のメインとしては役不足、というのが米露の現状認識になります。
ただし、現場で調達から運用まで行い、小部隊が自由に使える火力であるほか、人的損耗リスクもありません。その戦果に誇張はあれども、手軽で便利な補助火力には変わらず、ダメージを受けた敵に追い討ちをかけたり、他の兵器とともに使う分には超有効です。
組織文化との相性
では、このような米露の総括を受けて、自衛隊はどうすべきか?
よく日本は新装備の導入が遅いとされるも、自衛隊ではドローンそのものは使っており、航空自衛隊のグローバル・ホーク、陸上自衛隊のスキャン・イーグルがよい例です。
なお、陸自に限っていえば、上空から弾着観測を行うべく、遠隔操縦観測システムという無人ヘリを2000年代から使っています。
導入自体は進んでいるとはいえ、スピード感や技術面で遅れがあるのは否めず、多種類のドローンを大量生産する中国と比べた場合、日本は研究開発と実用化では追いかけている状況です。このあたりはイノベーションが苦手、あるいはスピード感に欠ける「体質」も関わり、別にドローンに限った話ではありません。
また、小型ドローンが消耗品と化すなか、自衛隊がそのように扱えるか、という疑問もあります。自衛隊は「物品愛護」「徹底管理」の意識が強く、備品(官品)を超大事にする精神が染みついています。薬莢ひとつの紛失も許さず、行方不明の備品は見つかるまで、みんなでしらみつぶしに探すレベルです。
これは血税を大切に思う証ながら、物品愛護の精神も度が過ぎると、無人機運用に支障をきたす恐れがあります。消耗品であるにもかかわらず、「官品」を使い捨て扱いしたり、そのように訓練できるかは怪しいです。
言いかえると、自衛隊の組織文化とドローンは相性がよくありません。
さらに、民間用の電波は基本使えないなど、電波法・航空法が運用上のハードルとなっています。
それでも、ドローンの有用性がなくならない限り、自衛隊への配備は着実に進み、法的な壁も改正次第で乗り越えられます。ただし、その開発や導入スピードは他国と比べて、ゆっくりとしたものになるでしょう。
島嶼戦では活躍機会が少ない(出典:アメリカ海軍)
そもそも、日本の有事は「海・空」を巡る戦いになり、ウクライナとは想定環境が全く違います。ロシア=ウクライナ戦争は双方が航空優勢を取れず、地対空ミサイルが膠着状態をもたらしました。しかし、海・空戦では拮抗状態が起きづらく、小型ドローンは地上戦ほどは活躍できません。
それゆえ、島嶼部での地上戦を除けば、小型ドローンの活躍機会は少なく、広大な海洋という地理的特性をふまえると、航続距離で優る航空機と大型ドローン、無人水上艇・無人潜水艇の方が役立ちます。

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