開発中止となった96式装輪装甲車の後継候補
防衛省は2022年12月に陸上自衛隊が運用中の96式装輪装甲車の後継としてフィンランド産のパトリアAMV XPを採用することを発表して話題となりましたが、実は当初計画では国産の「装輪装甲車(改)」を開発して後継として登場させるつもりでした。しかし、防弾性能を満たせないなどの不具合によって開発は中止に追い込まれ、「幻の国産装甲車」となってしまいました。
⚪︎基本性能:装輪装甲車(改)
重 量 | 20t |
全 長 | 8.4m |
全 幅 | 2.5m |
全 高 | 2.9m |
乗 員 | 11名(操縦手2名?) |
兵 装 | 機関銃、擲弾銃 |
価 格 | 不明 |
96式装輪装甲車は陸自がイラク派遣にも使用した兵員輸送車ですが、多様化する任務に対応するための改修には限度があるうえ、より防御力の高い装甲車が求められるようになりました。そこで、防衛装備庁は96式装輪装甲車を開発した小松製作所に再び白羽の矢を立て、2017年に試作車両が納入されます。この際、既存の部品や民生品を活用することで開発コストの節約と期間の短縮を図っており、開発に要した費用は約50億円と言われています。
装輪装甲車(改)は任務に応じて追加装甲や遠隔操作式の機関銃を設置できるうえ、モジュール式の車体後部はユニットを載せ替えることで兵員輸送型から指揮通信型や施設支援(工兵)型に改装可能です。また、車体重量は20トンほどなのでC-2輸送機による空輸が可能であり、遠隔地への迅速な展開を念頭に置いて開発されたことが分かります。

乗員の定数は11名ですが、これは2名の操縦手を含む数と推測されることから輸送できる兵員数は9名となります。そして、これら乗員を地雷や即席爆弾(IED)から守るために車体下部はV字型の構造を採用しました。このように地雷やIED対策も施された装輪装甲車(改)ですが、肝心の防御力は試験評価で及第点を取れず、2018年には開発が中止されました。
開発中止の主原因は車体の防弾性能が足りなかったことですが、前述の通りそもそも本車は96式装輪装甲車よりも高い防御力を求められていたのでこの欠点は致命的でした。どうやら装甲に用いられる防弾板の性能にバラつきがあったようですが、兵員輸送を担う装輪装甲車には最低でも小銃弾や機関銃弾から乗員を守れる耐弾性能が求められます。試験での落第を受けて小松製作所は新しい防弾板を開発したものの、時間とコストの節約を図りたい防衛省側が見切りをつける形となりました。こうして96式装輪装甲車を開発した小松製作所の新たな挑戦は不本意な打ち切りで終わり、装輪装甲車(仮)は試作車両を残して「幻の国産装甲車」となったのです。
⚪︎関連記事:陸自も採用!パトリアAMV装甲車
コメント