下からの爆風に強い軽装甲車
世界各地で民族や宗教を巡る問題が起きるなか、日本人がテロ事件に巻き込まれるケースも多発しています。
2013年のアルジェリア人質事件では、10人もの邦人が亡くなる最悪の結末を迎えた結果、自衛隊による在外邦人の陸上輸送がようやく認められました。そして、そのための装備として陸自に「輸送防護車」が配備されました。
⚪︎基本性能:輸送防護車(ブッシュマスター)
全 長 | 7.18m |
全 幅 | 2.48m |
全 高 | 2.65m |
重 量 | 14.5t |
乗 員 | 10名 |
速 度 | 時速100km |
行動距離 | 約800km |
兵 装 | 5.56mm機関銃×1 (最大3挺まで設置可) |
価 格 | 1両あたり約2.3億円 |
自衛隊の邦人救出は2013年以前も可能ではあったものの、その手段は航空機と艦船に限られ、対象者は自力で集合場所まで来なければなりませんでした。
これが法改正によって陸上輸送が認められたことで、より現実に即した救出ができるようになった一方、陸自の軽装甲機動車では地雷や即製爆弾(IED)で生じる爆風に対処しれきれないと懸念されました。
そこで、爆風に強い装甲車を探し求めたところ、オーストラリアが開発した軽装甲車「ブッシュマスター」に白羽の矢が立ちました。
ブッシュマスターはオーストラリア陸軍が1,000両以上も導入した実績を持ち、最大の特徴である「V字型」に設計された車体底部は、爆風を左右に逃して被害を抑えます。
戦車でさえ真下からの爆風には弱く、あの米軍のハンヴィーもイラク戦争ではIEDによってひっくり返る被害が多発しました。
これに対してブッシュマスターは、特殊な底部設計のおかげで耐爆性能が高く、襲撃に備えて装甲も機関銃弾に耐えられるレベルを確保しました。そのため、ブッシュマスターは「耐地雷・伏撃防護(Mine Resistant Ambush Protected)」を主旨とするMRAP車両に分類されます。
しかも、乗車定員は軽装甲機動車の倍となる最大10名なうえ、砂漠地帯が多いオーストラリアを想定して開発されたおかげで、エアコンと長距離行動用の飲料水タンクも搭載されています。
したがって、ブッシュマスターは邦人救出が想定される中東・北アフリカの気候に対する適応性を持ち、乗り心地も軍用車としては悪くないのも特徴です。
わずか8両という配備数と評判
このような利点をふまえて、防衛省はブッシュマスターを「輸送防護車」という名称で計8両を購入して、緊急展開する中央即応連隊に配備しました。
導入にあたっては、オーストラリアが日本と同じ右ハンドルであることやサイズ的にも空自が使うC-130H輸送機や最新のC-2輸送機に搭載できる点が評価されました。
訓練で出動した陸自の輸送防護車(出典:防衛省)
さて、8両のみで終わった輸送防護車ですが、運転手と機関銃手を除いた定員8名で全力投入をした場合、一度に64名を救出できる計算です。
いささか少ない気がする反面、孤立した数十人以上の邦人を救う事態はあまりなく、外国にいきなり大部隊を展開できない事情もあります。
また、ブッシュマスターに限らず、MRAPそのものが意外にも評判がよくないことも関係しているかもしれません。優れた耐爆性能をもたらすV字型の底部ですが、これは全体の重心を高めてしまい、小さな車体の操縦性・走破性を悪化させました。
この問題はウクライナに供与されたブッシュマスターでも確認されていますが、そもそもMRAP自体は市街戦などを意識した治安維持用の車両なので、通常の正規戦には向いていません。
よって、陸自としても治安戦用の輸送防護車を多く購入する理由がなく、8両に留めた可能性があります。
いずれにせよ、陸自の輸送防護車はわずか8両しかなく、中央即応連隊にだけ配備されている「超レア車両」なのは間違いありません。
コメント