「厄介モノ」を一網打尽するマインスイーパー
人類は今まで数えきれない武器を発明・使用してきましたが、その中で特に厄介とされているのが「地雷」です。発明以来、安価かつ簡単な武器がゆえに大量に使われてきましたが、殺傷能力を抑えることであえて殺さずに重傷を負わせ、民間人も巻き込む無差別性と除去が難しい難点を抱える「嫌われ者」でもあります。
どこに、どれだけ埋まっているか分からない恐怖と重傷を負った味方の姿を目の当たりにしたダメージは大きく、心理的には非常に「いやらしい」武器ですが、侵攻を防ぎたい側にとっては廉価で簡単に敷設できるうえ、敵の行動を制約できる利点があるのも事実です。ただ、使う側にとっても後処理が大変なのは変わらず、地雷除去というのは敵味方共通の悩みになります。
そこで地雷を一気に除去する車両として陸上自衛隊が配備したのが「92式地雷原処理車」です。
⚪︎基本性能:92式地雷原処理車
全 長 | 7.63m |
全 幅 | 3m |
全 高 | 2.77m |
重 量 | 25t |
乗 員 | 2名 |
速 度 | 時速50km |
装 備 | 地雷原処理ロケット×2 |
除去範囲 | 縦300m×幅5m(最大) |
価 格 | 1両あたり約2.6億円 |
「マインスイーパー」の愛称で知られる92式地雷原処理車は、車体上部に装備した2発の地雷原処理ロケットを使って地雷を一気に除去することができる珍しい車両です。この92式地雷原処理ロケットには、数珠つなぎになった26個の爆薬が収められており、発射後はパラシュートで目標の地雷原に着地し、爆薬への一斉点火で地雷を爆破処理します。

ロケットの射程はおよそ800mであり、一度に処理できる範囲は縦300m×横5mと言われています。このロケットを2発搭載しているので、1両で長さ600mの「穴」を地雷原に開けて、部隊が通れる道を確保できるのです。それまでの爆破装置では一度に縦100m前後の範囲しか処理できなかったのと比べると雲泥の差でしょう。
いくら戦車などの機甲部隊が充実していても、地雷原を前に立ち往生していては意味がありません。したがって、本来は時間と手間がかかる地雷処理を効率的に行うことで、本車は味方部隊が戦力としての真価を発揮するのに寄与しているのです。
ちなみに、ロケット型の地雷処理車両は世界的にかなり珍しく、英語では「地雷原に穴を開けるロケット」を意味する「Mine Breaching Rocket System(MRBS)」の名前が付与されています。そんな世界的にも珍しい本車は、全国の陸自施設科に配備されており、毎年実施される富士の総合火力演習でも目玉装備の一つとして披露されています。
地雷原に広範囲の穴を開けることが可能な92式地雷原処理車ですが、実は同時期に登場した別の地雷除去装備が存在します。それが「92式地雷原処理ローラ」であり、主に92式地雷原処理車を使うほどではない小規模な地雷原を想定したものです。

こちらは専用車両などではなく、90式戦車や89式装甲戦闘車の正面に取り付ける装備であり、車両本体が到達する前に地雷をあえて作動させて爆破処理します。地雷には重さによる圧力を感知したり、金属の磁気を探知するタイプがありますが、この装備はローラで地雷をわざと踏んで圧力式を、磁気発生装置を使って磁気式を作動させます。
これは、どちらかと言えば強行突破させるための装備であり、取り付けた車両にも爆風や衝撃波による被害が少なからずあるでしょう。それでも、小規模な地雷原ならば十分な通路を確保することができるので、敷設された地雷原の規模や求められる迅速性に応じて92式地雷原処理車と上手く使い分けられるそうです。
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