地雷原を突き進むための特殊装備
地上戦では防御側が地雷原を敷いて前進を阻むケースが多く、攻め手はこれを処理して突破するか、迂回を余儀なくされてしまいます。
しかし、後者だと進路が限られて待ち伏せに遭うリスクが高く、攻勢の「勢い(モメンタム)」が削がれる可能性も考えると、地雷原突破の選択肢は外せません。
これは基本的には「守り」に回る陸上自衛隊も同様で、占領された領土を奪還するには地雷で守られた敵陣を突破する必要性が出てくるのです。
そのため、陸自では爆薬をロケット弾で飛ばして広範囲の処理を目指す「92式地雷原処理車」と戦車の前部に取り付けて強行突破を行う「92式地雷原処理ローラ」を運用していますが、今回は後者について解説します。
⚪︎基本性能:92式地雷原処理ローラ
重 量 | 11.8t |
全 長 | 3.55m |
全 幅 | 4.3m |
全 高 | 1.7m |
展開用アームや処理ローラー、磁気発生装置などで構成される92式地雷原処理ローラは、主に90式戦車の正面に左右1基ずつ取り付けて、ゆっくり進みながら地雷をわざと作動させる仕組みです。
一応、取り付けた車両の到達前に地雷は爆破処理されるものの、通常は爆風による損傷を防ぐための分厚いアクリル板も装着します。
地雷には上からの圧力で作動したり、金属の磁気に反応するタイプがありますが、この装備の鋼鉄製ローラーは重さで圧力式地雷を作動させつつ、発生装置で帯びた磁気によって磁気反応型に対処します。
さらに、地面に接する形で左右の装置間に処理チェーンを張れば、触枝式という枝状の作動装置が地面に少し突き出たタイプも処理可能です。
この処理方式では狭い幅の安全地帯しか開削できないデメリットがあるものの、立ちはだかるのが小さな地雷原であったり、前述の92式地雷原処理車を用意する時間がないケースでは適任といえます。
つまり、大規模な地雷原に対して一気に突破口を開くときは92式地雷原処理車を、小規模な地雷原を強行突破するときはローラーを、という感じで使い分けます。
ただ、92式地雷原処理ローラは装着先に専用部分がないと取り付けられないため、運用は90式戦車と89式装甲戦闘車の一部車両、そして退役目前の74式戦車に限られています。
最新の10式戦車も専用の装着部分を追設すれば運用可能かもしれませんが、現時点でこうした動きは確認されていないので、後継装備が開発されるかもしれません。
地味で調達数も多くはありませんが、熾烈な地上戦が繰り広げられたロシア=ウクライナ戦争では地雷処理装備の必要性が改めて証明され、ウクライナに供与されたものはロシア軍の防衛線を突破するのに投入されました。
しかし、この反攻作戦では貴重な地雷処理ローラーが同じ地点で一挙に3つも撃破されているのが確認されており、最前線で地雷原を突破する難しさが浮き彫りになるとともに、損害を見据えて地雷処理ローラーもそれなりの数が必要ということが分かります。
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