ドローンに置き換える思い切った決断
ロシア=ウクライナ戦争が発生し、アジア太平洋でも台湾有事がいよいよ現実味を帯びる中、日本は2022年末に防衛力の大幅増強と自衛隊の大規模な組織改編を行うことを発表しました。その中に陸上自衛隊の攻撃ヘリを全廃してドローンで置き換えるという日本型組織としては異例の思い切った決断が目を引きましたが、これはいささか早まった感があります。
・今後廃止する機種と後継機
装 備 品 | 運 用 数 | 後 継 機 |
OH-1観測ヘリ | 37機 | 「スキャンイーグル2」 |
AH-1S攻撃ヘリ | 52機 | 無人攻撃機 |
AH-64D攻撃ヘリ | 12機 | 無人攻撃機 |
上記の表から分かるように、陸自は3種類のヘリを廃止して全て無人機で置き換える予定ですが、その目的は「省人化」にあります。自衛隊の中で最も人数が多いといえども、陸自も人手不足に悩んでいる点は変わらず、特に適性が求められるパイロットの確保は相当苦戦しているはずです。そこで、ヘリ部隊を大幅縮小することで1,000人以上の人員を捻出し、サイバーなどの他分野に振り分けるつもりですが、安全保障環境の激変と少子化による採用難を考えれば、この方針自体は間違っていません。ただ、攻撃ヘリの「全廃」は将来に禍根を残す可能性があるので再検討すべきと考えます。
まず、3機種のうちOH-1観測ヘリは機動性こそ高いものの、リアルタイムで映像を遅れないなど時代遅れとなっているうえ、小型ドローンで済む偵察任務にわざわざ専用のヘリを充てる必要性が薄いことから廃止は妥当でしょう。後継については、比較的安価で簡単に運用できる偵察ドローン「スキャン・イーグル2」が内定しており、既に一部で導入済みです。また、数の上では主力を務めるAH-1S攻撃ヘリも老朽化が進んでおり、改修にも限界があるので退役は仕方ありません。
ここまでは旧式化に伴う退役という観点で理解できますが、問題はAH-64D攻撃ヘリも廃止することで陸自における攻撃ヘリ部隊そのものが消滅し、運用のノウハウが途絶えてしまうことです。確かに、AH-1Sの後継として主力を担うべきだったAH-64Dは調達失敗によってわずか13機しか導入されず(事故で1機喪失)、戦力としては限られた存在になっています。
また、防衛省も攻撃ヘリを全廃するものの、必要に応じてUH-2多用途ヘリを武装化することで最低限の攻撃能力とノウハウは維持するつもりです。ただ、いくら操縦の基本が同じでも攻撃ヘリと輸送ヘリでは運用面の細部は当然ながら異なり、どこまで能力を維持できるかは未知数といえます。
ロシア=ウクライナ戦争ではロシア軍の攻撃ヘリがスティンガー・ミサイルのような携行式地対空兵器によって多数撃墜され、攻撃ヘリ自体がもはや戦場で通用しないという意見も出始めましたが、自衛隊は91式携帯地対空誘導弾を大量保有しているわけではなく、AH-64Dも島嶼防衛における航空支援でまだ活躍できる余地があります。偵察をドローンに任せるのはいいとしても、攻撃ヘリの役割をドローンに全て委ねるのは世界初の試みとなるのでリスクは否めません。
もしドローンで置き換えた後に攻撃ヘリの必要性を痛感した場合、有力候補に挙がるのはAH-64シリーズの最新型(E型)と思われますが、操縦から整備に至るまでの細かいノウハウが失われていると再建は難儀します。したがって、将来的にAH-64シリーズを再び導入する可能性を見据えて、12機しかないAH-64Dの部隊は技術維持の目的としても残すべきと考えます。
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