まだまだ改良!M109自走榴弾砲

アメリカ軍

米軍が近代化改修して使い続ける自走砲

火力の優劣が勝敗に直結することが多い陸上戦闘では戦車とともに重視されるのが自走砲を含む各種火砲になります。これは世界最強のアメリカも例外ではないものの、米軍の場合は十分な航空支援を期待できることから戦場では牽引式のM777榴弾砲を多用しており、自走砲も半世紀以上も前に開発されたM109自走榴弾砲が改良を経ながら現役のままです。

⚪︎基本性能:M109A7 155mm自走榴弾砲(最新型)

重 量38.1t
全 長9.1m
全 幅3.15m
全 高3.25m
乗 員4名
速 度時速60km
行動距離約300km
兵 装155mm榴弾砲×1
12.7mm重機関銃×1
射 程通常弾:20〜24km
ロケット補助弾:30km
精密誘導弾:40km
価 格1両あたり約10億円

1963年に登場したM109自走砲は幾度かの近代化改修を施しながら今も米軍の主力自走砲を務めていますが、これはアメリカが新型自走砲を配備する必要性にあまり迫られなかったことを意味します。一応、後継としてXM2001クルセイダーと呼ばれるものが途中まで開発されましたが、コスト増で中止に追い込まれました。

再検討の結果、前述のように圧倒的な航空優勢の下、精密な対地攻撃を行うことで地上部隊の支援要請に十分応えられるとされたのです。まさにアメリカだからこそなし得る技ですが、湾岸戦争およびイラク戦争ではこれを実践したのみならず、その後は主に非正規組織との対テロ戦争にシフトしたため、ますます従来の火砲で事足りることになりました。また、火砲という点では機動力に優れたHIMARS高機動ロケット砲を導入したことも新型自走砲を開発する必要性を薄れさせた一因です。

射撃するM109自走榴弾砲(出典:アメリカ陸軍)

原型が相当古いとはいえ、M109自走砲は初期型と比べたらその性能は天と地ほどの差があり、特に射程距離の延伸や射撃管制システムを含むソフト面の能力向上は著しいといえます。例えば、数の上で主力となっている「M109A6 パラディン」はそれまでのバージョンよりも射程が大幅に伸びたうえ、展開から射撃までの要する時間をわずか30秒まで縮めることに成功しました。

さらに、そのパラディンを改良した最新型「M109 A7」ではエンジンや足回りをM2ブラッドレー歩兵戦闘車と共通化することで整備性を向上させ、強化ガラスや防弾板を設置して防護力を強化しました。そして、将来的に自動装填装置を追設して毎分6〜10発の連続発射速度を目指す試みも進められています。

輸出先で退役が進むなか、本家アメリカも遂に後継開発へ?

さて、シリーズ累計1万両近くが生産されたM109自走砲ですが、アメリカ以外でも同盟国を中心に多数輸出された実績を持ち、その導入先は北欧のデンマークから中東のエジプトやイスラエル、アジアの台湾に至るまで多岐にわたります。しかも、原型が古いので輸出先での独自改良が許され、各国の事情に合わせた派生型が多く誕生する結果となりました。

しかし、30カ国近くで採用されたM109自走砲も今では退役が進められており、例えば570両以上を運用していたドイツは自国のPzH2000自走榴弾砲に置き換えました。このように輸出先では引退しているM109自走砲ですが、本家のアメリカもいよいよ後継の開発に着手したようです。

それが「M1299」と呼ばれる試作車両で、M109自走砲をベースとしつつ長砲身および自動装填装置の搭載、ロケット補助弾の使用によって毎分10発の発射速度と最大70kmの射程距離を実現しました。ただ、中国やロシアの長射程火砲を意識して開発され、2024年の配備を目指すこの新型自走砲は実質的にはM109自走砲の改良型となりそうです。

原型が古く凡用であっても、高いコストをかけて新しいものに更新するよりも既存のものを改良した方が合理的かつ費用対効果に優れているケースは多く、M109自走砲も航空優勢確保の自信があるという前提が付くものの、Mその一例といえるでしょう。古いバージョンでありながら、ウクライナに供与された30両近くのM109は砲兵戦で貴重な機動火力として稼働中で、戦場でまだ通用することを証明しました。また、米軍はレールガンに用いる超高速発射弾をM109自走砲から発射する実験を行っており、2020年の試験では巡航ミサイルに模した無人標的機の撃墜に成功したことから安価なミサイル迎撃兵器としての活用も検討中です。

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