現代の騎兵?陸自偵察用オートバイ

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機動力と汎用性に優れた斥候部隊の「脚」

どんな戦いでも「戦場の霧」と呼ばれる不確定要素によって作戦計画が狂い、勝敗に影響を与えることから、こうした「霧」を少しでも晴らす努力が求められます。それが相手の戦力や状況を知る「偵察」であり、この努力を怠ったり、軽視したまま戦闘に突入すると痛い目に遭います。

陸上自衛隊も当然ながら偵察を重要視してますが、特に現場で重宝されているのが高い機動力と汎用性を誇る「偵察用オートバイ」です。

⚪︎基本性能:偵察用オートバイ XLR250R/KLX250

XLR250R
(ホンダ)
KLX250
(カワサキ)
全 長2.17m2.14m
全 幅0.86m0.88m
全 高1.2m1.2m
重 量121kg152kg
乗 員1名1名
速 度時速135km時速135km
出 力28PS/250cc24PS/250cc

全国の偵察隊や普通科連隊に配備されている偵察用オートバイは、自衛隊が運用する車両の中で最も小さく、UH-1ヘリやゴムボートに載せて容易に運べる利点を持ちます。見た目は他の車両と同じように目立たないオリーブドラブ(OD)色ですが、もともとは民間用バイクを自衛隊向けに改良しただけなので、性能自体は市販のものと大差ありません。大きな違いといえば、バンパーや無線機を積むラックが追加されているぐらいです。

現在、陸自ではホンダの「XLR250R」とカワサキの「KLX250」という2種類の偵察用オートバイを使っていて、5代目にあたる後者が最新型になります(それでも、導入開始は2000年頃)。ちなみに、偵察用オートバイは4代目「XLR250R」までホンダ製が採用されてきましたが、5代目になってライバルのカワサキがようやく受注を獲得しました。

カワサキのKLX250 偵察用オートバイ(出典:陸上自衛隊)

さて、性能については市販のものと変わらないと説明しましたが、使い方は大きく異なります。

まず、単車としての機動力を活かして敵状偵察を行うわけですが、87式偵察警戒車のような大型車では進めない狭い道や起伏の激しい山中を走行できるうえ、危険を察知したらすぐに離脱できるので有利です。また、通信状況が悪い場合の伝令役や小規模な戦力の展開にも利用されるので、ある意味「何でも屋」としての使い勝手の良さがあります。

昔は騎兵が行っていた偵察や伝令などの任務をバイクが引き継いだ形ですが、馬のように疲弊せず、より快速なバイクは「早さ」が重視される偵察任務に向いた装備といえます。ただ、バイクの騒音は敵に察知されやすく、隠密偵察では小型ドローンを用いた方が確実かつ安全です。むろん、見つかる前提の威力偵察や途中まで進出して残りは徒歩で移動する場合は別ですが。

ヘリから展開する偵察用オートバイ(出典:陸上自衛隊)

実際の偵察任務では敵に見つかって反撃せざるを得ない状況も想定せねばならず、89式小銃を携行した隊員はバイクを盾にしたり、手放しで運転しながら射撃することが求められます。駐屯地祭の訓練展示では、こうした立ち乗り射撃に加えて、ウィリーやジャンプのようなアクロバティックな技も披露して、過酷な地形を走破できる腕前を内外に証明しています。

乗りたい者は偵察隊配属、もしくは中古品を購入

このように通常のバイクとは違って、道無き道を走りながら急速離脱や反撃を行う前提の偵察用オートバイは普段から運転技術に自信のあるバイク乗りでもギャップに直面する人が多いそうです。

では、実際に偵察用オートバイ乗りになるにはどうすればいいのでしょうか?

まずは事前にバイクの免許証を取得したうえで新隊員として自衛隊に入り、職種希望で機甲科を選びます(一応、入隊後の取得も可能だが、あらかじめ取っておくと有利)。希望通りの職種になれたら、今度は機甲科の専門教育を受けますが、その際に偵察隊への配属希望を出します。そして、偵察隊に配属された場合は、偵察用オートバイ乗りとして手を挙げて、約2週間の訓練と卒業検定を経てようやく目指していた姿になれます。

一方、ネットオークションなどに出回っている中古払い下げ品を入手できれば、自衛隊に入隊せずとも偵察用オートバイに乗れますが、少数が不定期に出回る希少性ゆえに値段も50万円あたりが相場です。ほかにも、出回っているパーツを集めて組み立てたり、スクラップ寸前のを買い取った事例があったり、実は手に入れやすい自衛隊車両という一面も持っています。

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