特徴がないのが「特徴」?
陸戦では古くから前線に兵を素早く送り込むことが重視され、鉄道、自動車、飛行機といった手段が発明された近現代においてはそのスピードが格段に向上しました。このような目まぐるしい変化のなか、第二次世界大戦後に期待の輸送手段として本格登場したのが飛行機より速度と搭載量では劣るものの、滑走路が不要などの柔軟性を有するヘリコプターでした。
こうした軍用ヘリでとりわけベストセラーとなっているのがアメリカのベル社が開発した「UH-1シリーズ」で、ベトナム戦争で大量投入されたのを皮切りに、抜群の信頼性および汎用性から世界各国の軍隊や警察、民間企業で愛用され、日本の自衛隊も多数導入しました。
⚪︎基本性能:UH-1J多用途ヘリコプター
全 長 | 17.4m |
全 幅 | 2.86m |
全 高 | 3.97m |
乗 員 | 2名 |
速 度 | 時速240km |
航続距離 | 約500km |
高 度 | 約3,800m |
兵 装 | 機関銃を設置可能 |
輸送力 | 兵員11名 貨物1,800kg |
価 格 | 1機あたり約12億円 |
UH-1シリーズは1950年代に開発され、その後は改良型、派生型を含めて累計1.6万機以上が生産された人気機種ですが、後継のUH-60ブラックホークが高価なこともあって、性能で少し劣るUH-1シリーズをあえて選択し続ける国が多いです。日本の陸上自衛隊では1962年から調達が始まり、現在は1991年から導入開始された独自改良型の「UH-1J」への全機移行が完了しました。
国産技術を使ったUH-1Jは、AH-1S攻撃ヘリと同じエンジンに換装したことに加えて、電線や有線トラップなどから機体を守るワイヤーカッター、そして暗視装置対応のコックピットや赤外線監視・妨害装置などの新機能が盛り込まれました。陸自の航空輸送力におけるワークホースとなり、現在も120機以上が運用されているUH-1Jは陸自航空機としては最多の数を誇るため、駐屯地祭などの行事で目にする機会が多く、最も馴染みのあるヘリといえるかもしれません。

そんなUH-1Jは大きな特徴がない代わりに、UH-1シリーズの安定性、汎用性はしっかり受け継いでいるので部隊も安心して使える利点が「売り」です。UH-1シリーズ自体は登場から既に60年以上が経過するものの、優秀な基本設計のおかげで変化に対応するための改良が容易なうえ、ベトナム戦争や湾岸戦争などの実戦経験で得たデータも豊富です。また、陸自も半世紀以上にわたって同シリーズを運用してきた歴史があるので、飛行や整備に関するノウハウは十分すぎるほど蓄積しており、全く新しい機種に乗り換えるよりは使い慣れた機体で戦った方が合理的といえます。
そんなUH-1Jには後継機としてUH-60JAが導入されたものの、コスト面を理由にUH-1Jを置き換えるだけの数は揃えられず、最終的には別の後継機として「UH-2」と呼ばれる機体が開発されました。これはベル社の「ベル412 EPX」という機体をベースに同社とSUBARUが共同開発したものですが、ベル412 EPXもUH-1シリーズの派生型なので結局は同じ系統であり、同シリーズがいかに優れているかを改めて示しました。
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