海自初の「非大気依存型」は長期潜航が可能
最も効果的な兵器のひとつで、最強とされる原子力空母やイージス艦さえ撃沈できることから各国海軍が特に警戒するのが「潜水艦」です。なかでも、海上自衛隊の潜水艦は最重要視される静粛性に優れているうえ、日本周辺の地理的特徴をくまなく把握していることから仮想敵の中国海軍にとっては一番厄介な存在といえます。そんな我が国の潜水艦隊で主力を担っているのが2009年に登場した「そうりゅう型」であり、海自潜水艦22隻のうち半数以上の12隻が同タイプで占められてます。
⚪︎基本性能:「そうりゅう型」潜水艦
排水量 | 2,900t(基準) |
全 長 | 84m |
全 幅 | 9.1m |
乗 員 | 65名 |
速 力 | 水上航行時:時速24km 水中航行時:時速33~37km |
航続距離 | 約12,000km |
潜航深度 | 700〜900m? |
潜航時間 | 約2週間 |
兵 装 | 533mm魚雷発射管×8 ・89式魚雷 ・ハープーン対艦ミサイル |
価 格 | 1隻あたり約530億円 |
「そうりゅう型」は海自で初めて「非大気依存推進(AIP)」と呼ばれる機関システムを採用した点が有名ですが、これはディーゼル・エンジンの燃焼に必要な酸素を取り込むための定期浮上を行わなくても長期間潜航できるのが特徴です。通常動力型の潜水艦は原子力潜水艦と比べて静粛性で勝る反面、この酸素補給のために浮上もしくはシュノーケルを海面に出さなければならないため、敵に発見される可能性が高くなってしまいます。
「そうりゅう型」ではこうした欠点を改善するAIP技術を用いたスターリング・エンジンを10隻に搭載しており、最後の2隻についてはリチウムイオン蓄電池を採用しました。このリチウムイオン蓄電池は最大速力こそスターリング・エンジンより劣るものの、高速航行の持続性に優れている利点があることから11番艦以降は潜航可能期間がさらに向上したと思われます。
このように通常動力型の短所であった潜航期間の延伸に成功したわけですが、これにあたっては長所の静粛性を犠牲にしておらず、むしろ船体全体を吸音材や反射材で覆おうことで静粛性は大幅に向上しました。こうした工夫は艦内でも見られ、吸音材や防音材を至るところに設置して雑音を極限しています。
では、AIPを用いて静粛性と長期潜航を両立させた「そうりゅう型」は実際にはどれぐらい長く海中に潜めるのでしょうか。
これは最高級の国家機密にあたるので詳細は当然ながら公表されていないものの、特定海域での待ち伏せなど消費エネルギーを極力抑えながら活動する場合はスターリング・エンジン搭載艦で約2週間、リチウムイオン蓄電池を搭載した11番艦以降であれば最長1ヶ月と言われています。ただし、これが積極的に目標を捜索したり、敵を追尾する場合は消費エネルギーが異なるので潜航期間も同様に変わってきます。
「より深く」への進化と後継艦の登場
潜水艦で潜航可能期間に続いて気になるのが「どこまで深く潜れるか」ですが、これも国家機密に該当するのであくまで推測になりますが、筆者としては以下の3点から「そうりゅう型」の潜航可能深度を最低でも700m、最大で900mと考えます。
(1)船体に使われている「NS110」鋼材が理論上は深度1,000mまで耐えられる
(2)搭載している89式魚雷の最大深度が900m
(3)前級の「おやしお型」の最大潜航深度が800mとされている
もちろん、2点目に関しては「使用魚雷の最大深度≠発射母艦の潜航可能深度」ではあるものの、少なくともそれに近い深度で活動できることを示唆しています。

さて、従来よりも突出した潜航期間、そして進化した潜航可能深度を誇る「そうりゅう型」潜水艦はさらに特筆すべき点として船体後尾の舵を十字型からX字型に変更したことがあげられます。これによって細かい操舵による機動性の向上が見込めるほか、待ち伏せ攻撃のために海底着座する際に舵を痛めなくて済みます。
また、情報処理の高速化と集約管理を実現し、ネットワーク機能を強化して司令部との情報共有を容易にしました、2021年に1番艦「そうりゅう」が民間船との衝突事故を起こして通信装置が損傷した際、司令部との連絡が断絶されたので現在はバックアップとして衛星携帯電話も導入されました。

通常動力型の潜水艦としては間違いなく世界最高峰の性能を誇る「そうりゅう型」は22隻体制を完成させた海自潜水艦隊の主力、いわゆるワークホース的な存在であり、全12隻のうち8隻が南西諸島方面を睨む呉基地に配備されました。このように全艦が現役バリバリのなか、新型ソナーを搭載して船体を少し大型化させた後継艦「たいげい型」が早くも登場し、こちらも続々と就役しています。
既に後継まで現れている「そうりゅう型」ですが、国内のみならず海外からも高い評価を獲得しており、特に原子力潜水艦しか持たないアメリカは最高級の通常動力型潜水艦を相手に演習できることを有益に捉え、準同盟国といえるオーストラリアも老朽化した潜水艦の後継として導入を検討したほどです。残念ながら輸出の件は白紙となりましたが、それでも通常動力型を選ぶ際に少なくとも性能面では今なお筆頭候補にあがるでしょう。
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