海自初の非大気依存型潜水艦
海上自衛隊の艦艇でよく思い浮かぶのがイージス艦やいずも型ヘリ空母でしょう。しかし、現代において最も効果的な兵器の一つであり、周辺諸国からも特に警戒されるのが「潜水艦」です。とりわけ、海上自衛隊の潜水艦は静粛性に優れていることで有名であり、日本周辺の海域という「地の利」を生かした戦闘に特化しているため、有事の際には敵にとって一番厄介な存在と言えます。日本はそんな潜水艦の数を22隻に増強しましたが、その主力を担うのが今回紹介する「そうりゅう型」です。
⚪︎基本性能:そうりゅう型潜水艦
排水量 | 2,900t |
全 長 | 84m |
全 幅 | 9.1m |
乗 員 | 65名 |
速 力 | 水上航行時:時速24km 水中航行時:時速33~37km |
航続距離 | 12,000km |
潜航深度 | 700〜900m? |
潜航時間 | 2〜3週間 |
兵 装 | 533mm魚雷発射管×8(対艦ミサイルも発射可能) |
価 格 | 1隻あたり約530〜660億円 |
「そうりゅう型」は、海上自衛隊で初めての非大気依存推進(AIP)を採用した潜水艦であり、計12隻が建造されました。通常型潜水艦の動力であるディーゼルエンジンの燃焼には酸素が必要ですが、この酸素を取り込むために定期的に浮上もしくはシュノーケルを海面に出さなければなりません。しかし、浮上すれば高確率で発見されるため、この大気への依存が静粛性に優れた通常型潜水艦の欠点といえます。
AIPは酸素を取り込むための浮上をしなくても長期間潜航できる技術のことを指します。「そうりゅう型」は12隻のうち10隻がAIP技術を用いたスターリング・エンジンを搭載しており、最後の2隻はリチウムイオン蓄電池を採用しました。

リチウムイオン蓄電池は、最大速力はスターリング・エンジン搭載艦より低下するものの、持続的に高速航行を続けることができるというメリットがあります。そのため、11番艦以降は従来の艦よりも潜航可能期間が向上していると思われます。このように、1〜10番艦と11番艦以降では同じ「そうりゅう型」でも性能が異なるため、別のタイプと認識しても良いかもしれません。
では、AIPを導入した「そうりゅう型」はどれぐらい長く潜航できるのか?
詳細は国家機密なので当然公表はされていないのに加えて、就く任務によっても変わってきます。例えば、積極的に敵艦を探し出して沈める任務とずっと動かずに待ち伏せする任務とでは、消費するエネルギーが異なりますよね。
そのため、一概には言えませんが、後者の待ち伏せ任務を前提とした場合、スターリング・エンジン搭載艦については2〜3週間は潜航可能だそうです。一方、リチウムイオン蓄電池を搭載した11番艦以降は最大1ヶ月まで潜航可能と推測します。
「より深く、より静か」への進化
潜水艦で最も気になるのが、潜航可能深度でしょう。
これも国家機密のため、推測するしかありませんが、以下の点から筆者は「そうりゅう型」の潜航可能深度を700〜900mと見ます。
・船体に使われている鋼材「NS110」が理論上は深度1,000mまで耐えられる
・搭載している89式魚雷の最大深度が900mである
・前級の「おやしお型」の最大潜航深度が800mと言われている
「搭載魚雷の最大深度が900m=発射母艦も同様」ではありませんが、少なくともそれに近い深度で活動できることを示唆しています。いずれにせよ、通常動力型潜水艦で600〜700mも潜れる艦は稀であり、これだけの深度まで追尾できる魚雷もあまりありません(ゆえに有利)。
さらに特筆すべき点として以下が挙げられます。
・船体後尾の舵を十字型からX字型に変更
→より細かい操舵が可能となり、機動力がアップ。
海底に着座する際に舵を痛めなくて済む。
・基幹信号伝送装置を使ったネットワークの強化
→各種センサーで得た情報処理の高速化と集約管理
潜水艦と司令部で情報共有可能に
残念ながら、1番艦「そうりゅう」が2021年に高知沖で民間船との衝突事故を起こした際、通信装置の損傷によって肝心の司令部との連絡が不可能になりました。そのため、今後は独自で使える衛星携帯電話の導入も検討中です。

また、そうりゅう型は船体全てに吸音材や反射材で覆っているため、静粛性が格段に向上しています。艦内も吸音材や防音材を至るところに設置しており、少しでも雑音を減らす工夫をしていることがうかがえます。これら創意工夫と努力の結果、世界屈指の静粛性を誇ることとなり、文字通り「海の忍者」と恐れられるようになりました。
海自潜水艦隊の主力として
通常動力型の潜水艦としては間違いなく世界屈指の高性能を誇る「そうりゅう型」は現在12隻全てが就役済みであり、うち8隻が南西諸島に近い呉基地に配備されています。海自は潜水艦22隻+練習艦2隻の計24隻体制を目指していますが、その半数を占める「そうりゅう型」は潜水艦隊のワークホース(主力)です。
そんな「そうりゅう型」は海外からの評価も高く、同盟国の米海軍は共同訓練を通じてその性能を目の当たりにしていますが、特に原子力潜水艦しか持たない米海軍にとって通常動力型の中でも特に高性能な本艦と演習をすることは実戦を想定した上ではかなり有益だそうです。

また、オーストラリアも老朽化した自国潜水艦の後継として本艦の導入を検討していました。日本側も輸出に向けて協議を続けたものの、残念ながら計画は白紙となりました。防衛機密の中でも最高峰のものですから、輸出すれば機密漏洩の可能性がどうしても残ります。特に、対潜能力が発展途上の中国海軍が日本の防衛機密の中で最も欲しいのは間違いなく潜水艦の情報でしょうから。
さて、全艦が揃った「そうりゅう型」ですが、早くも後継艦の「たいげい型」が登場しています。1番艦の「たいげい」は2022年3月に就役予定の最新鋭潜水艦で、「そうりゅう型」よりも少し大きい3,000tの船体を持ちます。「そうりゅう型」の11、12番艦と同じリチウムイオン蓄電池に加えて、新型のソナーも搭載予定です。
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