目的はステルス技術研究
世界最強のアメリカ海軍では、その優位性を維持するべく、新しい技術・兵器を開発してはいろいろ試してきました。
そのなかには以前取り上げた無人艦「レンジャー」も含まれますが、今回はかつて存在した謎の船「シー・シャドウ(Sea Shadow)」について見ていきます。
- 基本性能:シーシャドウ IX-529
排水量 | 563t(基準) |
全 長 | 50m |
全 幅 | 21m |
乗 員 | 12名 |
速 力 | 14.6ノット(時速26.3km) |
兵 装 | なし |
建造費 | 不明 |
この船は「海の影」という名を持ち、見た目からして明らかに奇抜な印象を受けます。それは「SWATH船型」と呼ばれる双胴デザインに基づくもので、船体上部は直線的な山のような形になっていました。
1985年に建造されたシー・シャドルの目的は、ひとえにステルス技術の研究にあって、当時の最先端技術を使ってレーダーに映らない船を目指したわけです。レーダー反射面積を減らすために、船体には凹凸(おうとつ)がほとんどなく、甲板と窓さえありません。
こうしてステルス性能を高めるかたわら、実験艦として省人化や安定性を高める船体構造・水中翼技術も試されました。その結果、もろくて不安定そうな外見とは異なり、実際の洋上安定性はかなりよく、波高5m以上の荒れた海でも問題なく航行できました。
また、船自体は560トン弱と小さく、乗組員も最大12名となっていますが、運用は4名ほどで済みます。そして、長期航海は想定しておらず、船内には電子レンジと冷蔵庫ぐらいしかありませんでした。
次世代につないでから退役
その性質上、長らく秘密にされていたシー・シャドウですが、実験終了後の1993年にはようやくその存在が公開されました。
実験で得られたデータや知見は、その後の艦艇設計に役立っており、とりわけステルス技術は「ズムウォルト級駆逐艦」に反映されています。ほかにも、双胴デザインと水中翼技術が音響測定艦の建造時に用いられました。
では、この実験艦はどうなったのでしょうか?
しばらくはサンディエゴ海軍基地に保管されていたものの、すでに役割を終えて維持費もかかることから、2006年にはオークションにかけられました。このとき、転売は許されず、サンディエゴまで引き取りにきたうえで、全てスクラップにするのが条件でした。
よって、入札者はなかなか現れず、最終的な落札・処分は2012年までかかりました。
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