榴弾砲から放たれるGPS誘導弾
砲兵戦といえば、複雑な計算と弾着観測に基づく軌道修正のイメージがありますが、現代は砲弾そのものに誘導機能を与えて、従来よりもはるかに精密な砲撃を可能にしました。
なかでも代表例といえるのが、西側各国の155mm榴弾砲向けに開発された誘導砲弾「エクスカリバー」です。
これはアメリカがイラクやアフガニスタンで多数使用したほか、ロシアの侵攻を受けるウクライナにも供与されて活躍しています。
⚪︎基本性能:「M982 エクスカリバー」誘導砲弾
重 量 | 48kg |
全 長 | 99.6cm |
直 径 | 155mm |
射 程 | 約40〜50km |
価 格 | 1発あたり約1,200万円 |
アーサー王物語に登場する伝説の剣「エクスカリバー」の名を有するこの砲弾は、アメリカとスウェーデンが1992年から15年の歳月をかけて開発したもので、GPS誘導機能によって平均誤差「2m以内」という命中精度を実現しました。
この高い精度のおかげで誤射のリスクが低くなり、わずか50メートルの近距離にいる味方への火力支援もできるようになったため、エクスカリバー砲弾は榴弾砲の価値を再向上させた存在です。
発射されたエクスカリバー砲弾は、小型翼を展開して滑空することで射程距離を40km以上まで伸ばせますが、スウェーデンのアーチャー自走榴弾砲は50km超の射撃実績を持ち、アメリカが開発中の「M1299」に至っては試験で70kmという数字を叩き出しました。
この長射程と精密誘導と組み合わせた結果、エクスカリバーは砲弾でありながら40km先の車両に命中するという誘導ロケットに匹敵する性能を誇ります。
このように長距離滑空の末、GPS誘導で正確に命中するエクスカリバー砲弾は、2007年にイラクで実戦投入されて以降、市街戦での近接火力支援のみならず、山岳地帯の多いアフガニスタンでは長距離支援砲撃で現地の地形を克服しました。
コストに見合う戦果を期待できる?
さて、性能も実績も申し分ないエクスカリバーはたちまち頼れる兵器の仲間入りをしたものの、高スペックの代償としてコストの問題からは逃れられず、1発あたりの値段は約1,200万円といわれています。
ただし、一発必中を狙うエクスカリバーは、通常弾のような大量消費を前提としておらず、戦車や前線司令部のような「高価値目標」に使うことで、費用対効果を期待できます。
そして、同じ目標を撃破するにしても、通常弾より少ない弾数で済むというのは、それだけ兵站の負担軽減につながることを意味します。
このようにコスト分の戦果を期待できるエクスカリバーは、開発国のアメリカ・スウェーデン以外にもカナダ、オランダ、オーストラリアなどに輸出されており、ウクライナにもM777榴弾砲と一緒に提供されました。
大規模な砲兵戦が繰り広げられたロシア=ウクライナ戦争では、長射程で高精度のエクスカリバーがロシア軍の戦車や装甲車、陣地を多数破壊しています。
さらに、少両射撃で済むエクスカリバーは、反撃を受ける前に陣地展開する「シュート&スクート」戦術にも適した弾種で、現代砲兵戦における有用性を改めて示しました。
ちなみに、同じ155mm榴弾砲を運用している陸上自衛隊も、エクスカリバー誘導砲弾を運用可能です。しかし、島嶼防衛を想定したミサイル戦力の強化が急がれるなか、優先度の低い砲兵戦向けに1発1,200万円の砲弾を購入する余裕はないと思われます。
⚪︎関連記事:意外に高精度?M777榴弾砲の威力と射程とは
コメント