西側標準の自走砲
ロシアのウクライナ侵攻が衝撃を与えたあと、イギリスは早くから軍事支援にふみ切り、対露強硬派の筆頭になりました。
戦争初期にN-LAW対戦車ミサイルを提供したり、他国に先駆けて主力戦車のチャレンジャー2を出すなど、かつての大英帝国を彷彿とさせる行動力です。
しかし、チャレンジャー2は少数供与にとどまり、そう易々とは戦線に投入できません。むしろ、砲兵戦で繰り広げる現地で重宝されているのが、同じく供与された「AS-90」であって、これはイギリスの主力自走砲だった車両です。
イギリス陸軍は計179門を導入したものの、近年は約90門まで保有数が落ち込み、その全てをウクライナに渡しました。
- 基本性能:AS-90自走榴弾砲
| 重 量 | 45t |
| 全 長 | 9.07m |
| 全 幅 | 3.5m |
| 全 高 | 2.49m |
| 乗 員 | 5名 |
| 速 度 | 時速53km |
| 行動距離 | 420km(整地) |
| 兵 装 | 39口径155mm榴弾砲×1 ※改修型は52口径 7.62mm機関銃×1 |
| 射 程 | 最大24.7km ※改修型は30km ロケット補助弾は40km以上 |
| 発射速度 | 毎分6発 |
| 価 格 | 1門あたり約3.5億円 |
AS-90自走砲はFH70榴弾砲(けん引式)を継ぐべく、1993年にイギリス陸軍で配備が始まり、最初の「AS」とは「Artillery System for the 1990s(1990年代向けの火砲システム)」の略称です。
自衛隊の99式自走砲と同世代にあたり、突出した性能はないといえども、西側標準の155mm砲であるほか、安定した信頼性を誇ってきました。
最大48発分の弾薬が収まり、自動装填装置で10秒間に3発の射撃、あるいは6発/分の連続射撃を行えます(最長3分間)。そして、展開・撤収はそれぞれ約1分で済み、陣地転換を繰り返す「シュート・アンド・スクート」に適応しました。
一方、射程は初期型で24.7kmだったところ、砲身を伸ばした改良型では30kmに伸び、エクスカリバー誘導弾を使えば、さらに遠距離の目標まで手が届きます。
また、コンピュータ制御の射撃管制システムを持ち、通常弾でも高い命中率を期待できるとともに、全てのNATO標準弾に対応しました。2003年のイラク戦争に投入されたとき、優れた命中精度を発揮しており、予想以上の命中弾を叩き込みました。
堅実な性能はウクライナでも変わらず、激しい砲兵戦で損失を出しながらも、精度では旧ソ連火砲を凌駕するそうです。
ウクライナへの提供と後継
他の西側標準の装備と同じく、良い意味で「普通」の性能を誇り、高性能・高価格な兵器を少数そろえるより、普通の兵器を多く生産すべき事例になりました。
ところが、AS-90の登場時には東西冷戦は終わり、仮想敵のソ連は崩壊していたことから、最終的な調達数は予定より少なく、緊縮財政と軍縮機運で後継は開発されていません。
その間に電子機器などの近代化改修、ポーランド向けの派生型「AHSクラブ」に取り組み、なんとか性能維持に努めてきました。
ウクライナに供与されたAS-90(出典:イギリス陸軍)
ウクライナへの供与が契機になり、2023年には後継に向けて動き出すも、取り急ぎスウェーデンからアーチャー自走砲を購入しました。
いきなり50門を提供したあげく、2025年には部品調達用の車両を含む、全門供与という前代未聞の支援をしたため、イギリス本国の自走砲群に穴が空き、すぐに代替が必要になったわけです。
これを14門のアーチャー自走砲で埋めながら、最終的にはドイツの「RCH 155」を導入します。


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