混在する火砲を指揮・統制するシステム
大規模な砲兵戦が展開されたロシア=ウクライナ戦争では、砲兵戦力で劣るウクライナに対して、西側諸国から多くの火砲が供与されました。
しかし、こうした支援にはFH70榴弾砲のような旧式兵器からカエサル自走榴弾砲をはじめとする比較的新しいものまで混じり、全体の統制が難しいのも事実。
さらに、ウクライナ自身が西側とは兵器体系の異なる旧ソ連製火砲を使ってきたため、旧東側仕様と新たに入ってきた西側仕様の兵器を同時運用するはめになりました。
例えるならば、新旧のiPhoneとアンドロイド・シリーズが入り乱れている状況ですが、こうした課題を解決しているのが「クロピヴァ」という火力指揮統制用のアプリ。
これは2014年のクリミア危機と続くドンバス紛争において、近代化途上のウクライナ軍がロシア軍火砲に苦しめられた経験を受け、同国の愛国系NGO団体が開発したもの。
民間の力で誕生したクロピヴァは、地図上に目標を示して付近の火砲に情報共有するアプリです。電波妨害に強いスターリンクのインターネット・システムにつなげれば、屋外でも簡単に使えるうえ、最新の衛星写真地図に基づく高精度情報をもたらします。
具体的な使用例をあげると、小型偵察ドローンから情報をもたらされたクロピヴァは、周辺にいるM777榴弾砲を最適の攻撃手段として選定し、目標情報と射撃指示を与えて撃破まで導きます。

まさに、アプリを介して混在する各種火砲のシステム化と統制に成功したわけですが、クロピヴァはタブレット端末とスターリンク接続用のアンテナ、WiFiルーターさえあれば、どこでも簡単に運用可能です。
そして、民生品ということで、改善と大量調達もしやすい利点があります。
このように前線からの攻撃依頼と後方の砲兵を結びつける「ウーバー」のような役割を果たすクロピヴァは、効率的な指揮・統制を通じて展開時間の短縮にも寄与しており、結果的に位置露呈による被撃破リスクも減少しました。
防空戦にまで対応した戦場版「UBER」
東西の新旧兵器が混在するウクライナ軍砲兵にとって、今では欠かせないツールとなったクロピヴァですが、今度は同じく供与された防空兵器にも対応すべく、新たに対空迎撃用の機能が追加されました。
こちらも基本的には同じ使い方で、レーダーや防空監視員が捉えた目標を地図上に表示後、周辺にいる迎撃部隊が対空ミサイルで撃墜する仕組み。
地上目標と違って、高速移動する航空機やミサイルの場合は、反応時間が極めて限られるものの、ドイツのIRIS-Tをはじめとする西側の防空兵器をクロピヴァ経由で効率的に指揮・統制したおかげで、防空戦闘時の迎撃率は飛躍的に向上しました。
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