機動性に優れたトラック型自走砲
NATOの一角を占めるフランスは、他の西側諸国と違って昔から独自路線や国産兵器にこだわる国であり、現代砲兵戦を左右する「自走砲」もその例外ではありません。
現在は対砲兵レーダーで直ちに発砲位置がバレるので、射撃しては速やかに陣地転換をする「シュート・アンド・スクート」が砲兵戦の原則となっています。
したがって、より機動力に優れた火砲が求められるなか、軽快なトラック型の自走榴弾砲が各国の主流となりつつあります。
トラック型自走砲といえば、スウェーデンとノルウェーが開発した「アーチャー自走榴弾砲」が有名ですが、日本の自衛隊も最新自走砲としてやはりトラック型の19式装輪自走155mmりゅう弾砲を導入しています。
そして、同じトラック型自走砲で欧州の陸軍国フランスが誇るのが「カエサル155mm自走榴弾砲」です。
⚪︎基本性能:カエサル155mm自走榴弾砲
重 量 | 17.7t |
全 長 | 10m |
全 幅 | 2.55m |
全 高 | 3.7m |
乗 員 | 5名 |
速 度 | 最高時速100km (不整地は50km) |
行動距離 | 600km |
射 程 | 最大50km以上 |
発射速度 | 毎分6〜8発 |
価 格 | 1両あたり約10億円 |
カエサル自走榴弾砲はフランスが開発した国産自走砲であり、2000年代初期から計140両以上がフランス軍に納入されました。
名前に対して「フランスなのに古代ローマの名前?」と疑問に思う方が多いですが、実はこれはフランス語の「砲兵システム搭載トラック」を略した際にできた偶然の産物。
だから、あの有名なローマのカエサルとは関係ありません。
カエサルはトラックの荷台に榴弾砲と照準システムを積んだ「トラック型」ですが、これに伴って従来の自走砲よりも大幅な軽量化に成功しています。
そのため、C-130輸送機などに搭載して迅速に展開できるのみならず、大型ヘリによる吊り下げ輸送すら可能となりました。フランスは元・宗主国として政治的に不安定なアフリカの旧植民地でしばしば軍事作戦を行いますが、カエサルも現地に空輸された実績があります。
さらに、カエサルは装輪式(タイヤ式)なのでキャタピラ式と比べて舗装された道での機動力で優り、同じ装輪式の装甲車などに十分随伴しながら戦えます。
そもそも、複雑なキャタピラ式よりも装輪式の方が調達価格が安く、メンテナンスも比較的楽ですが、カエサルの場合は車体そのものに既存のトラックを流用することでさらなるコスト削減を実現しました。

このように機動力とコストで有利なトラック型自走砲ですが、残念ながら欠点もあります。
例えば、カエサルは砲を荷台に載せているので射撃する際は一旦外に出て操作しなければなりません。そして、トラック型自走砲は全般的に装甲がないに等しく、被弾時や至近弾を浴びた時の脆弱性は否めません。
トラックをベースとしていることから車内は狭く、弾薬もわずか18発しか収納できません。
また、カエサルは軽量であるがゆえに反動に弱く、射撃時には地面に脚を食い込ませて衝撃を吸収する必要があることからアスファルトやコンクリートの上では射撃しづらいのです。
この軽量化の弊害は砲の旋回可能角度にも影響を与えており、車体のバランスを保つために旋回角度は左右15度ずつまでに制限されています。

さて、射撃についてはタッチパネルを使った自動照準装置を採用しており、味方が得た情報とリンクしながら精密かつ迅速な射撃ができます。
このタッチパネル方式の射撃システムによって本来複雑な計算を要する照準作業が大幅に簡素化され、訓練期間の短縮にもつながりました。
一方、カエサルには自動装填装置が付いておらず、砲弾をトレイに乗せて砲内に送る半自動式の補助装置が設けられているのみ。しかし、この装填トレイまでは人の手で砲弾を運ばなければならず、砲自体の機動力に対して装填方式は割とアナログです。
よって、発射速度は毎分6〜8発と他のトラック型自走榴弾砲と比べると低めですが、車体の軽量化と射撃システムの簡素化によって陣地への展開と撤収にかかる時間は2〜3分ほどに短縮されました。
また、肝心の射程距離は延伸型の榴弾で40〜42km、ロケット補助推進弾を使用した場合は50km以上まで伸びます。
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