イギリスの最新鋭空母「クイーン・エリザベス」

外交

誇り高きイギリス海軍の最新鋭の空母

イギリス海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」がインド太平洋に派遣されていることが話題となっていますが、この空母の性能と実力はどのようなものなのか?そしてイギリスにとってどのような存在なのでしょうか?

⚪︎基本性能:空母クイーン・エリザベス

排水量45,000t(満載時:67,669t)
全 長284m
全 幅73m
速 力26ノット(時速48km)
乗 員1,600名
航続距離18,520km
兵 装20mm CIWS×3、30mm機銃×4
搭載機F-35B戦闘機×36、各種ヘリ×10
建造費1隻あたり約4,650億円

規模と搭載機数では米海軍の原子力空母には敵いませんが、最新のF-35B戦闘機を十数機も搭載している時点で強力な戦力です。艦名の由来は、16世紀の女王エリザベス1世であり、現在の女王陛下エリザベス2世ではありません。また、同空母はクイーン・エリザベス級の1番艦であり、2番艦は「プリンス・オブ・ウェールズ」として2019年に就役しています。

空母「クイーン・エリザベス(以下QE)」はイギリス海軍史上、最大の軍艦であり、排水量だけで見れば世界最大の戦艦「大和」に匹敵します。主な搭載機は短距離離陸・垂直着陸が可能なF-35B戦闘機であり、空母QEもそれを前提に建造されています。そのため、カタパルトではなく、艦首のスキージャンプ台を利用して艦載機を発進させる仕組みを採用しています。また、戦闘機に加えて、哨戒、早期警戒、輸送用の各種ヘリも運用しており、通常は計40機前後の航空機を搭載しています。

空母QEの艦載機F-35B(出典:イギリス海軍)

運用面では、5つの戦闘機/ヘリ用の発着スポット、1つのヘリ専用スポットを活用することで、5-6機の同時発着が可能です。そして、習熟訓練を経て15分間で最大24機の戦闘機を発進させることに成功しています。いくら搭載機数が多くても、迅速に発艦させる能力がなければ、せっかくの戦力を発揮できませんからね。イギリス海軍は第二次世界大戦以前から空母運用実績があるため、今回も十分な訓練を経て戦力化を達成した同空母は米海軍以外の空母戦力としては世界随一と言えます。

最新鋭空母のインド太平洋進出に見える覚悟

さて、そんなイギリスの最新空母QEですが、今年4月に空母打撃群を編成してインド太平洋への遠洋航海に旅立ちました。空母打撃群はイギリス海軍の駆逐艦2隻、フリゲート2隻、補給艦1隻、そしておそらく水面下で同行する原子力潜水艦1隻で構成されています。ここまでは通常の空母打撃群と大して変わりませんが、特筆すべきは米海軍のイージス駆逐艦1隻とオランダ海軍のフリゲート艦1隻が同打撃群に編入されていることです。

これは同じNATO諸国として連携をアピールするとともに、米英蘭のインド太平洋地域への関与を示すものであり、とりわけ中国に対する大きなメッセージを持ちます。フランスとドイツも相次いで同地域への軍艦派遣を発表しており、その先駆けとして欧州随一の空母打撃群が来訪する意味合いは大きいです。しかも、今回の遠征は1度きりではなく、次回は2番艦の「プリンス・オブ・ウェールズ」が派遣される予定です。

インド洋を航行する英空母打撃群(出典:イギリス海軍)

100年前までは覇権国家として7つの海を支配したイギリスですが、第二次大戦後は大英帝国の瓦解と国力の縮減を経験します。かつては世界最強を誇ったイギリス海軍も予算面で大きな制約があり、規模で見れば実は海上自衛隊の方が上回っています。そんな財政的余裕のないイギリスが無理をして建造したQE級空母2隻(実際、2番艦の建造を一時は断念)をはるばるアジアにまで派遣するのは異例中の異例です。しかも、空母は2隻しかないため、常時運用可能なのは1隻です。その貴重な1隻を莫大な経費のかかるアジアへの遠洋航海に出動させたのです。

そこまでしてイギリスが発したいメッセージはまさに対中国を見据えた「イギリスのアジア回帰」です。戦後、覇権国家の地位をアメリカに譲ったイギリスは1968年にスエズ運河より東の地域からの撤退を表明します。この「スエズ以東からの撤退」から半世紀以上を経て、イギリスは再びアジア太平洋に戻ってきたのです、今度は台頭する中国を牽制するために。その関与への強固な姿勢と意志を表すために、虎の子の空母打撃群を本国から遠く離れた地域までわざわざ派遣したのです。今後は、イギリス海軍の軍艦がインド太平洋を遊弋する光景が戦後最も頻繁に見られるでしょう。

空母QEの来訪は第二次日英同盟のシンボル?

では、日本はどういう認識なのか?

日本としては、単独で中国に対抗するわけにはいかず、同盟国アメリカも衰微している状況では遠方からのこの援軍を大歓迎すべきでしょう。日本はアメリカの他に、既にオーストラリアとインドを巻き込んだQUAD(クアッド)を中心に中国に対抗する姿勢ですが、ここにイギリスが加わるのはメリットしかありません。しかも、イギリスに続いてオランダ、フランス、ドイツも相次いで軍艦を派遣するのです。

80年前は日本がこれら欧州各国をアジアから追い出す側でした。それが今では自由主義陣営の一翼としてむしろ迎え入れる側になったのは感慨深いものです。しかも、2番艦の「プリンス・オブ・ウェールズ」は1941年のマレー沖海戦で日本が撃沈した英戦艦と同名です。同じ名前を引き継ぐ新鋭軍艦を今度は日本が迎え入れて、共同訓練を行う見込みです。かつての敵同士が、時を経て同じ地域で今度は友として行動を共にする意義は大きく、日英の和解を示すものでもあります。

海賊対策でソマリア沖に派遣された護衛艦「せとぎり」と空母QE(奥)(出典:イギリス海軍)

実際、既に向かっている空母QEとは海上自衛隊の護衛艦が訓練を実施しており、今後も同様の訓練を重ねていきます。同打撃群は9月には日本に到着予定であり、空母QEは在日米軍の横須賀基地に入港します。一方、随伴する他の艦艇はそれぞれ呉、佐世保などの海自基地に分散寄港する見込みです。

日英の連携アピール以外にも、いずも型護衛艦を空母化する海上自衛隊にとって同じF-35Bを運用している空母QEから学べることは多いはずです。今回の訪問を契機に、将来的には英打撃群に海自の護衛艦が加わったり、逆に英艦艇がいずも型の機動部隊に参加することもあり得ます。いずれにしても、今回の空母QE来訪は事実上の第二次日英同盟に向かっている両国の姿勢を分かりやすく示すものです。

1 ・・・次のページ

コメント

タイトルとURLをコピーしました