濃密な防空網を持つ豪州初のイージス艦
周辺に大きな脅威がなかったオーストラリアは軍艦も老朽化したものを長らく使っていましたが、中国が南シナ海を含む海洋進出とオセアニア地域への浸透を活発化させると、いよいよ軍備強化にシフトせざるを得なくなりました。
オーストラリア自体は最も懸念される台湾海峡からは離れているものの、南シナ海はインドネシアを隔てた向こう側に位置しており、距離の割には脅威を感じやすいといえます。
また、アメリカにとってオーストラリアは戦域から離れた安全圏の後方基地として重要で、日本とともに対中戦略上は欠かせない国になりました。
こうした事情を受けたオーストラリアは海上戦力の近代化に注力しているわけですが、そのひとつが同国初のイージス艦である「ホバート級」駆逐艦の建造です。
⚪︎基本性能:ホバート級駆逐艦
排水量 | 7,000t(満載) |
全 長 | 146.7m |
全 幅 | 18.6m |
乗 員 | 202名(航空要員16名) |
速 力 | 28ノット(時速) |
航続距離 | 5,000浬(9,300km) |
兵 装 | 127mm速射砲×1 20mm CIWS×1 25mm機銃×2 垂直発射装置(VLS)×48 ハープーン対艦ミサイル×8 連装魚雷発射管×2 |
艦載機 | 哨戒ヘリ×1 |
価 格 | 1隻あたり約2,000億円 |
2017年から相次いで3隻が就役した「ホバート級」はスペインのイージス艦「アルバロ・デ・バサン級」をベースに設計されたもので、中枢のイージス・システムはベースライン7.1というバージョンを採用して高い情報共有能力と共同交戦能力(CEC)を獲得しました。
防空の要である対空ミサイルはSM-2とESSMの2種類を搭載しており、特に前者は最大150km先の目標を撃墜できますが、将来的にはより長射程で対艦攻撃にも使えるSM-6へ更新される見通しです。
さらに、電子妨害を含めた電子戦能力、近接火器とデコイ装置も充実していて、防空網に冗長性を持たせているのが分かります。
一方、海上自衛隊のイージス艦とは異なり、弾道ミサイルに対する迎撃能力は付与されておらず、あくまで艦隊防空用として運用されています。
高い対地・対艦攻撃能力も魅力
対潜能力については、アスロックのような対潜ロケットは搭載しておらず、新型ソナーとデコイ、短魚雷による近距離対処を想定しています。
ほかにも、米英との新たな同盟枠組みである「AUKUS」の発足にともなってトマホーク巡航ミサイルとステルス性の高いNSM対艦ミサイルを購入するため、対地・対艦攻撃能力は一気に強化される予定です。
予算的に多数の艦艇を運用できない事情もあって、防空面を中心に多くの装備を詰め込んだ「ホバート級」ですが、操艦や推進、被害復旧などは最新システムで自動管理することで省人化と乗員の負担軽減を図りました 。
しかし、こうした最新装備の導入と建造トラブルはコストの高騰をもたらし、検討された4隻目の建造は実現しませんでした。
したがって、ローテーション体制では常時稼働しているのは1隻という状況ですが、「アンザック級」フリゲート(8隻)の後継計画が遅延している影響で「ホバート級」を新たに3隻建造する可能性が浮上しています。
コメント