大失敗?ズムウォルト級駆逐艦

アメリカ軍
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全く新しいコンセプトの次世代艦

あらゆる兵器で「ステルス」を重視する現代ですが、外見からして特にステルスかつ近未来を意識した軍艦があります。それがアメリカ海軍の「ズムウォルト級」駆逐艦であり、本来ならば最新鋭かつ次世代の軍艦として米海軍の主力を担うはずだった存在です。

しかし、コストを含むあらゆる難点に直面したこの駆逐艦は、当初予定されていた建造数の32隻から大幅減のわずか3隻のみの就役に終わりました。従来とは全く異なるコンセプトで期待された軍艦は一体何が問題だったのか?

⚪︎基本性能:ズムウォルト級駆逐艦

排水量14,798t (満載)
全 長183m
全 幅24.5m
乗 員142名
速 力30ノット (時速56km)
兵 装62口径155mm砲×2
垂直ミサイル発射基×80
30mm機関砲×2
艦載機SH-60哨戒ヘリ×1
無人機×3
価 格1隻あたり約5,000億円

米海軍ではステルス艦に大量のミサイルを積む構想が冷戦期に生まれ、このコンセプトは次世代戦闘艦の計画において活用されることになりました。21世紀初頭に退役を迎える巡洋艦や駆逐艦の後継として、徹底したステルス性と多数の垂直ミサイル発射基(VLS)を備え、陸海空の全領域における対処能力を持つ「万能艦」を次世代戦闘艦として追求し、それが「ズムウォルト級」につながったわけです。

見た目からしてステルス重視が分かる「ズムウォルト級」(出典:米海軍)

まず、「ズムウォルト級」は従来の艦船と全く異なる外見をしており、現代のものというよりはSF世界の軍艦を連想させるほど。これは、ひたすらステルス性を意識した大胆な設計の結果であり、艦全体に内向きの傾斜を付けて電波を空に反射させることで、敵のレーダーに映りにくくなっています。

また、レーダー反射面積を極限するために、アンテナ類を壁面に固定することでマストを廃止したり、主砲も射撃時以外は砲身を格納するなど、とにかく余計な突起物を減らす工夫が見られます。そして、これらのステルス対策のおかげで本艦のレーダー反射面積は従来艦の1/50まで抑えられたそうです。

最新技術を詰め込んだ実験艦?

見た目からして近未来感が満載の「ズムウォルト級」ですが、いわゆるカタログ・スペックも大したものと言えます。

艦内の全システムがネットワークでつながっており、戦闘指揮所(CIC)に操縦室や司令部機能を加えた「SMC」と呼ばれる部屋で一括操作できます。また、通信や探知に使う各種センサー類も最新型を採用しており、レーダーに関してはイージス艦を超える索敵範囲を有すると言われています。

兵装については80セルのVLSを備えており、ESSM対空ミサイル、トマホーク巡航ミサイル、アスロック対潜ミサイルを運用可能です。ただし、ESSMは1セルあたり4発を格納できることから「セル数=実際のミサイル搭載数」ではありません。

そして、主砲は155mm先進砲システムを2基搭載しており、あの戦艦大和を超える最大44kmの射程距離を誇ります。この155mmという口径は昔の軽巡洋艦に匹敵し、打撃力も現在の主流である127mm主砲を大きく超えるものですが、これは「ズムウォルト級」が水陸両用作戦時の火力支援も想定しているため。上陸作戦時に戦艦や巡洋艦が艦砲射撃を行うシーンを映画等で見かけますが、あれの現代版を「ズムウォルト級」が担うわけです。

他にも、開発中のレーザー兵器や極超音速兵器を搭載する計画があり、前者は迫り来る対水上及び対空目標に対して、後者は遠距離の対地攻撃に使われる見込みです。

駆逐艦としては「失敗作」?

さて、ここまで読むと「ズムウォルト級」は高い能力を持つ優秀艦に思えますが、一般的には「失敗作」として見られています。しかし、これは実際の能力を指しているというよりは、費用対効果や本来の計画と比較した場合の評価と言えます。

まず、冒頭でも述べたように「ズムウォルト級」は本来ならば次世代の主力艦として32隻も建造される予定でした。しかし、軍事予算の削減とコスト高騰によってわずか3隻のみで計画が打ち切られ、主力どころかあくまで実験艦的な意味合いに終わりました。

さらに、兵装類に関しても、本来ならば128セルものVLSに長射程のSM-2対空ミサイルや弾道ミサイル防衛も可能なSM-3対空ミサイルを搭載するはずでしたが、VLSは最終的に80セルに削減されたうえ、防空能力も射程50kmほどのESSMに限定されました。

最終的に能力が抑えられた「ズムウォルト級」(出典:米海軍)

そして、上陸作戦時の火力支援を想定した主砲もGPS誘導やロケットブーストを使った射程150km以上の長距離対地攻撃砲弾を使うはずでしたが、コスト削減のために調達は中止されました。現在運用している射程44kmの砲弾でも火力支援は可能ですが、アウトレンジで精密な射撃ができるという点では長距離対地攻撃砲弾が欲しかったところでしょう。

他にも、電磁レールガンを搭載する計画があり、本艦はレールガンが大量消費する電力を十分賄えるほどの大出力の発電機を備えていますが、レールガン開発は2021年に中止されました。代わりに遠距離攻撃が可能な極超音速兵器を搭載するつもりですが、こちらも最終的に実現するかは疑問です。

失敗作の烙印が押された「ズムウォルト級」(出典:米海軍)

このように、「ズムウォルト級」は計画よりも限定的な能力しか持たないわけですが、いわゆる「万能艦」を目指してあれこれ詰め込もうとした結果、上手くいかず、中途半端に肥大化した軍艦が出来上がったと評することもできます。何よりも、イージス艦を凌駕する5,000億円というコストに対して、実際に発揮できる能力が見合っておらず、「数」も求められる駆逐艦としては使い勝手が悪いのが現状です。

米海軍は既に艦船数で中国海軍に追い抜かれており、数的優勢を確保することが課題とされている中で、あまりに高価な「ズムウォルト級」は失うことを恐れて戦闘投入を躊躇するなど、むしろ負担になる可能性が高いです。敵の「量」に対して「質」で対抗するのは決して間違っていませんが、「質」で対抗できる「量」にも限度があります。

歴史が証明してきたように、少数かつ高価な高性能兵器よりもそれなりに使える兵器を低コストで量産した方が最終的に良いケースが多く、「ズムウォルト級」の失敗を経験した米海軍も結局アーレイ・バーク級イージス艦の改良型を後継として量産する道を選びました。

費用対効果や本来計画との比較という意味では「失敗作」という烙印が押された「ズムウォルト級」ですが、斬新なデザインや15,000トン近い大きさから有名な艦船であり、米海軍のプレゼンスを示すうえではある意味イージス艦よりも効果があると言えます。したがって、今後は実験艦の側面を強めつつ、高価な駆逐艦としてアメリカのプレゼンスを他国に示す役割を演じるでしょう。

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