おおすみ型輸送艦は強襲揚陸艦なのか?

海上自衛隊
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輸送力を飛躍させた「ドック型輸送揚陸艦」

離島防衛が安全保障における最大の課題として浮上し、これを想定した日本版海兵隊・水陸機動団が発足するなか、懸念されているのが輸送力の確保です。有事では第1空挺団による空挺降下や現地空港を活用した迅速な空輸も行われる見込みですが、多くの人員や装備を運ぶとなれば海上輸送に頼らざるを得ず、そこで必ず投入されるのが海上自衛隊唯一の輸送艦「おおすみ型」になります。

⚪︎基本性能:おおすみ型輸送艦

排水量8,900t(基本)
全 長178m
全 幅25.8m
乗 員135名
速 力22ノット(時速41km)
兵 装20mm CIWS×2
搭載艇エアクッション型揚陸艇(LCAC)2隻
輸送力陸自1個中隊
※330名+車両30〜40両
価 格1隻あたり約500億円

海自は「おおすみ型」の登場以前は2,000トン級の低速輸送艦しか持っておらず、輸送力と高速力を兼ね備えた大型輸送艦が切望されていました。そして、国としても1990年代のPKO派遣時を通じて外洋を難なく航行できる大型輸送艦の必要性を痛感した結果、「おおすみ型」3隻の建造が認可されたのです。

それまでの海自輸送艦が主に海岸に乗り上げて揚陸するタイプだったのに対して、「おおすみ型」は沖合に展開してLCAC舟艇やヘリを使った揚陸方法を採用しており、特にLCACは最高時速92kmを発揮しながら戦車1両または大型車両3〜4台を海岸に運ぶことができます。

LCAC(左)は輸送艦の後部にあるウェルドックから発進する(右・赤丸で囲んだ部分) 出典:海上自衛隊、筆者加工

輸送艦全体としては陸上自衛隊の1個中隊に匹敵する330名の人員を収容でき、長期航行に備えてこれら同乗者の居住スペースも設けられています。一方、装備についても大型トラックならば最大65両、90式戦車も18両まで積載可能なので「おおすみ型」3隻で1個連隊規模の戦力を輸送できる計算になります。

また、海自艦艇として初めて全通式甲板を採用したことでCH-47輸送ヘリなどの大型ヘリの離発着が実現され、近年は改修によってV-22オスプレイへの対応も可能となったものの、専用格納庫や本格的な整備機能は有していないので米海軍の強襲揚陸艦と比べると航空運用能力はかなり限定されます。今でこそ「いずも型」が正式に空母化されていますが、当時は一定の航空運用能力しか持たない「おおすみ型」でさえ空母や強襲揚陸艦との指摘を受け、一部界隈の反発を呼びました。

そもそも、格納庫がなく、エレベーターも車両用のものしかない「おおすみ型」が空母になれるわけがなく、仮に無理やりスキージャンプ台を設置しても22ノットの速力とわずか178mの全長では固定翼機を運用するのは不可能です。また、専用格納庫を設けてヘリの運用を前提とする強襲揚陸艦にも該当しないことから「おおすみ型」を正確に分類するならば「ドック型輸送揚陸艦」となります。

災害派遣では「洋上基地」として活躍

従来型より優れた能力を持つ「おおすみ型」は災害派遣時では毎回そのポテンシャルを発揮しており、陸自隊員や救援物資を乗せて出動し、港に接岸できれば大型クレーンと舷側のランプドアを使って一気に揚陸作業を行います。一方、港湾設備の被災などで接岸できない場合は沖合に展開してLCACとヘリを活用しますが、特にLCACは砂浜であればそのまま乗り上げられるので柔軟な運用ができます。

広い全通式甲板を持つおおすみ型輸送艦(出典:海上自衛隊)

そして、艦内には医療設備として手術室のほかに2つの集中治療室(ICU)と6つの病床が設けられており、必要に応じて甲板に野戦病院施設と入浴施設も展開できるため、ヘリで搬送されてきた患者の収容や治療を行う簡易病院船としても機能します。さらに、車両を積載するスペースを使えば最大1,000名もの民間人を一時的に収容でき、災害派遣では「いずも型」や「ひゅうが型」とともに海自の洋上基地として常に活躍してきました。

このように国内の災害派遣、そして自衛隊の海外派遣や国際緊急援助でも活躍してきた「おおすみ型」ですが、就役から既に20年以上が経過していることから後継艦の検討がそろそろ始まる予定です。一応、海自は「多用途母艦」という構想を抱いているようですが、離島防衛を見据えた場合は最初からヘリコプターなどの航空機、水陸機動団のAA7-7水陸両用車を運用する前提になるため、事実上の強襲揚陸艦となるでしょう。いずれにせよ、陸上自衛隊に海上輸送部隊を発足させるなど、離島防衛に向けた海上輸送力は現状では足りておらず、「おおすみ型」の後継選定は急務となっています。

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