海自初のヘリ空母という歴史的存在
旧日本海軍の末裔である海上自衛隊にとって空母保有は長年の悲願といえますが、その実現に向けて大きな一歩となったのが初めて護衛艦として全通式甲板を採用し、海自初のヘリ空母となった「ひゅうが型」の登場です。
⚪︎基本性能:ひゅうが型護衛艦
排水量 | 13,950t(基準) |
全 長 | 197m |
全 幅 | 33m |
乗 員 | 360名 |
速 力 | 30ノット(時速56km) |
兵 装 | 20mm CIWS×2 垂直ミサイル発射基(16セル) 3連装短魚雷発射管×2 12.7mm機関銃 |
搭載機 | SH-60K哨戒ヘリ×3 MCH-101掃海/輸送ヘリ×1 ※最大搭載機数は11機 |
価 格 | 1隻あたり約1,000億円 |
空母建造構想を長年抱えていたものの、国内外の反応と政治的判断から実現できなかった海自はヘリコプターを2機以上搭載できる護衛艦(DDH)から歩みを始め、1990年代には全通式甲板の「おおすみ型」輸送艦を建造しました。そして、2000年代に中国の台頭が顕著になると老朽化したDDHの後継として本格的なヘリ空母「ひゅうが」「いせ」の建造を決めました。
「ひゅうが型」は後に登場して空母化された「いずも型」と比べてひとまわり小さいものの、「ひゅうが型」の代わりに退役した「はるな型」の基準排水量が5,000トン、搭載機数が3機であった点を考えると本艦の就役がいかに画期的であったかが分かります。
最大の特徴である航空運用能力については、1隻で護衛隊群の航空戦力に匹敵する11機ものヘリを搭載できるうえ、護衛艦として初めて格納庫と甲板を結ぶエレベーターを設置したことでスムーズな運用が可能となりました。また、飛行甲板には4機分のヘリスポットが設けられており、3機による同時離発着や陸自の攻撃ヘリやV-22オスプレイを展開することもできます。ただし、通常はSH-60哨戒ヘリを3機だけ搭載しており、必要に応じて艦載機を増やす方針です。
このように「ひゅうが型」1隻で護衛隊群の航空運用能力と対潜哨戒能力が飛躍的に強化されるわけですが、「いずも型」と同様にF-35B戦闘機の運用を目指した空母化の可能性を問う声があります。しかし、「ひゅうが型」の甲板は固定翼機を運用するには長さが足りず、航空機用のエレベーターが2つとも甲板の真ん中に設置されているのでエレベーターより大きい航空機は搭載できません。例えば、同じF-35Bを運用する英海軍のクイーン・エリザベス級空母、そして空母化された「いずも型」はどちらも全長が250m近くあり、エレベーターも航空機がはみ出しても問題ないように艦の側面に設けられています。

一応、「ひゅうが型」の大きい方のエレベーターは長さ20m、幅13mとなっているため、全長15.6m、全幅10.7mのF-35Bを載せられるものの、エレベーターを動かしている間は飛行甲板が使えず、無理やりスキージャンプ台を設置したとしても搭載燃料と兵器を著しく制約された戦闘機がわずか5機ほどしか運用できません。結局、費用対効果が薄いなかで多額の費用をかけて改修し、艦隊の対潜哨戒能力を支える「ヘリ空母」の利点を犠牲する空母化は必要はないのです。
艦隊旗艦や災害時の洋上拠点として機能
「ひゅうが型」はその船体の大きさを活かして司令部レベルの設備と機能が備わっており、まさに艦隊旗艦としての役割を果たせるように従来の護衛艦よりも通信機能と戦闘指揮システムが大幅に強化されました。さらに、新型レーダーの搭載のおかげで一部の汎用護衛艦よりも優れた探知距離を持ち、先述の対潜哨戒能力と合わせて艦隊の中核を担うための機能が多数盛り込まれました。
一方、戦闘力については対艦攻撃能力が付与されていないなど、対水上戦闘への直接参加は想定していませんが、最低限の自衛能力しかない「いずも型」とは異なり、アスロック対潜ミサイルと対空ミサイルESSMを発射できる垂直ミサイル発射基(VLS)を16セル装備しています。

広大な甲板と格納庫、そして航空運用能力を持つことで洋上の航空基地として機能する「ひゅうが型」は現実味が帯びる離島奪還作戦では人員や物資を輸送する拠点として使われる見込みですが、艦内には集中治療室と手術室を含む8つの病床があるうえ、必要に応じて格納庫や甲板にも野戦病院を開設できることから状況次第では病院船としても活用されるでしょう。
何かと「いずも型」の陰に隠れがちな「ひゅうが型」ですが、本格的な空母化によってF-35B戦闘機の分だけ哨戒ヘリの搭載数が削られるため、対潜哨戒能力における「ひゅうが型」の存在は今後ますます重要になります。
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