警戒監視網をバックアップする存在
現代戦は航空機やミサイルによる攻撃から始まりますが、守る側はこれをいち早く探知するためのレーダーが欠かせません。そのため、日本全国の28箇所に航空自衛隊のレーダーサイトが設けられており、24時間体制で監視していますが、攻撃してくる敵も当然ながらこの「目」を真っ先に潰してくるでしょう。
仮に攻撃や故障等でレーダーが機能しなくなった場合、当該空域からの侵入を許してしまうので空いた穴は早急に塞がねばなりません。そこで、出番となるのが早期警戒管制機と今回紹介する移動警戒隊の移動式レーダーです。
航空自衛隊では北は北海道から南は沖縄まで4つの移動警戒隊を配置しており、それぞれが「J/TPS-102」と呼ばれる移動式3次元レーダーを運用しています。このレーダーは探知を行う空中線装置や集めた情報を解析する監視処理装置等で構成されており、トラックに載せて電源車とともに各地に展開可能です。

メインとなる空中線装置は大きな筒状のレーダーですが、イージス艦でも見られるフェーズド・アレイ式であることから、いちいち回転しなくても常時360度の警戒ができ、以前のものよりも目標の探知及び追尾能力が大幅に向上しました。肝心の探知距離については防衛機密のため公表されていませんが、レーダーサイトの代替を担うことから約300kmはあるのではないかと推測します。
航空優勢の確保が何よりも求められる現代において、防空網を巡る攻防はその後の戦局を大きく左右します。湾岸戦争やイラク戦争ではアメリカは圧倒的な航空戦力を駆使してイラク側のレーダー施設や防空兵器を徹底的に潰しました。また、現在行われているロシアの侵略戦争では、ロシアが序盤でウクライナ側の防空網を破壊できず、航空優勢を確保できなかったことが電撃戦の失敗と苦戦に繋がりました。
このように「監視の目」たるレーダー施設をいかに守るか、もしくはバックアップするかが肝要であり、狙われやすい固定式レーダーサイトと比べて移動できるレーダーは「生存性」という観点でも重要なのです。
空白地帯を埋めるプレイヤーとして
さて、日本全国は北から南までレーダーサイトが設置されていますが、多数の離島と広大な海洋面積を有する日本はその全てをカバーできるわけではありません。残念ながら「空白地帯」は存在しており、その典型例が小笠原諸島と大東諸島です。
中国の海洋進出を受けて南西諸島には自衛隊の配備が進められてきましたが、大東諸島には何も配備されておらず、小笠原諸島もレーダーサイトがありません。空母戦力を増強中の中国海軍が両諸島の近辺にまで進出しており、有事はもちろんのこと、平時からの監視が難しい事態となっています。
したがって、防衛省は小笠原諸島と大東諸島への移動式レーダーの展開を検討しており、特に後者の北大東島への配備を優先的に進めるようです。これは小笠原諸島の地元理解に時間を要することと、北大東島の方がむしろ自衛隊誘致を求めている背景があります。
実際に配備されたら大きな空白を埋めることになりますが、移動式レーダーはあくまで一時的なバックアップが任務であり、恒久的な展開は想定外と言えます。むしろ、移動式レーダーが北大東島に展開している分、他の地域におけるバックアップができないので、いずれは大東諸島や小笠原諸島にも固定式のレーダーサイトを建設するのが望ましいでしょう。
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