世界唯一の全翼爆撃機
世界最強のアメリカ空軍(以下「米空軍」)は、他国が必死に予算を捻出して購入する最新鋭のステルス戦闘機を1,000機単位で運用するバケモノ組織ですが、そんな米空軍にとっても「高すぎる」飛行機がいくつか存在します。その一つが世界最強のステルス爆撃機と称されるB-2スピリットです。
⚪︎基本性能:B-2スピリット爆撃機
全 長 | 21m |
全 幅 | 52.4m |
全 高 | 5.18m |
乗 員 | 2名 |
速 度 | 最高時速1,000km |
航続距離 | 約12,000km |
兵 装 | 爆弾/ミサイル 18t ・例 500ポンド(227kg)爆弾×80発 |
価 格 | 1機あたり約2,200億円以上 |
B-2爆撃機は冷戦真っ只中の1970-1980年代に開発されたステルス爆撃機であり、ソ連の奥地深くにある核発射基地に対して核攻撃を加える目的で作られました。奥深くに侵入するには、敵に探知されないことが前提条件であり、したがってB-2は何よりもステルス性が重視されました。そのステルス性を徹底的に追求した結果、主翼一枚のみで構成される「全翼機」として登場したのです。
尾翼がなく、大きな翼が飛んでいるようにしか見えない全翼機は極めて良好なステルス性を持つ一方で、設計が難しく、機体の安定性が悪いのが欠点。その独特の外見は飛行機というよりは、UFOのイメージに近く、「墜落したUFOの技術を利用している」という噂が今でも絶えません。
全翼機自体はナチスドイツが開発を試みたり、戦後も無人機として何種類か登場しています。しかし、有人機かつ爆撃機で実用化して実戦配備したのはB-2のみであり、現状では世界唯一の全翼爆撃機です。

そんなB-2はレーダー反射面積を極限まで減らすために、凹凸がほとんどない流線型の設計となっており、機体表面には電波吸収剤と特別な塗装が使われています。これらの工夫の結果、通常のレーダーには映らないステルス性を獲得しており、敵に探知されずに爆撃することが可能となりました。その反面、全翼機ならではの安定性の悪さは否めず、コンピューターによるアシストなしでは飛行できないそうです。
「探知されない」ことが前提ではあるものの、最低限の自己防御機能として電子妨害システムを搭載しており、いざという時には敵のミサイルやレーダーを妨害・撹乱します。他にも、空中給油機能を持つことから航続距離と連続飛行時間を延長することができ、長時間連続飛行を想定した機内にはトイレや簡易キッチン、仮眠スペースが設けられています。

さて、気になる爆弾搭載量についてですが、各種爆弾や対地ミサイルなどを最大18トンまで搭載可能であり、日本全土を焦土にしたあの有名なB-29の3倍です。通常は2,000ポンド(900kg)の精密誘導爆弾(JDAM)を16発するそうですが、他にも対地ミサイルや地下施設を破壊するバンカーバスター爆弾なども搭載できます。また、本機は「ステルス戦略爆撃機」であることから最大16発の核爆弾を積むことができ、当初の想定では探知されずに敵国に侵入して核攻撃を加えるのが主任務でした。
ただ、B-2の配備が始まった1997年には開発時に想定されたソ連は既になく、もはや大規模な国家間戦争は起きないと言われている状況でした。そのため、B-2は本来任務とは異なり、初実戦のコソボ紛争以来、アフガニスタン、イラク、リビアでテロ組織や非正規軍を相手にした通常爆撃に投入されてきました。無誘導の500ポンド爆弾ならば最大80発搭載可能なので、まともなレーダーや対空兵器を持たないテロ組織に対して文字通り「爆弾の雨」を降らせます。
最強の代償として「高すぎる」
核戦争が実際に想定されていた冷戦期においては、向こうが撃つ前に敵の核戦力を壊滅させることが重要でした。そこで気付かれずに攻撃できるB-2は最強の切り札として開発され、その思い入れは英語で「魂、精神」を意味する本機の名前「スピリット」にも現れています。
B-2はそれぞれの機体が「Spirit of 州名」という個別の名前が付いていますが、これは航空機ではかなり異例です。州名を使うのは戦艦以来のことであり、B-2に対する期待と思い入れの強さを感じると同時に、この戦略爆撃機が昔の戦艦に匹敵する価値を持つことが分かります。
実際にパワーバランスを左右するという意味ではB-2も戦艦も同じ戦略兵器と言えます。そして、かつての戦略兵器であった戦艦が予算を圧迫する高価な存在であったように、B-2爆撃機も「高すぎる」ことで有名です。

B-2は1機あたり約2,200億円という驚異の価格を誇りますが、これは現代の戦艦と言われるイージス艦の1.5倍であり、世界一高い飛行機としてのギネス記録すら持っています。あまりの高さから機体重量の45トンと同じ量の黄金と同価格とさえ言われており、米軍も配備数を当初の130機近くから21機まで減らさざるを得ませんでした。
そもそも全翼機はその複雑な構成から生産費と維持費が高く、ステルス性を追求したB-2は湿度や温度を制御した専用施設が必要なため、さらに維持費がかさむわけです。そして、電波を吸収し、機体全体を覆う特別塗装は7年に一度は再コーティングしなければならず、維持費の高騰に寄与しています。
1機で敵国を壊滅させられるという意味では割に合うのかもしれませんが、高すぎるが故に米軍も実戦に投入して失うことを恐れる傾向があります。2008年にはグアムでB-2が墜落する事故が起きており、パイロット2名は無事だったものの、2,200億円の機体を喪失しました。そのため、米軍も運用と管理にはより一層慎重になりました。
後継機と対中国を見据えて
最強だが高すぎるB-2爆撃機ですが、現在は20機が運用されており、そのほとんどがミズーリ州のホワイトマン空軍基地に所属しています。今後もしばらくは運用され続けますが、早ければ2020年代後半には退役が開始されるそうです。後継機は開発中の新型ステルス爆撃機「B-21レイダー」が予定されていますが、これはB-1爆撃機とB-2爆撃機を置き換える存在となります。

冷戦期と比べて核戦争のリスクは下がったとはいえ、米中新冷戦と言われている現在は大規模な国家間戦争の可能性が再び取り上げられています。したがって、対中国の観点ではB-2の存在価値は極めて大きく、B-21が登場するまでの間に有事が起こった際は、当初想定されたような核攻撃を見据えた任務に就くかもしれません。また、探知が難しいステルス爆撃機は通常の爆撃任務でも中国軍に対して優位性を確保するうえで貴重です。
しかし、実は中国もB-2に近いステルス爆撃機を開発していると言われており、米軍の一方的な優位性はもはや存在しないのかもしれません。中国が開発しているのは「H-20」と呼ばれる爆撃機で、見た目はB-2にそっくりな全翼ステルス機だそうです。2018年頃に目撃され、B-2とほとんど同じ能力を持つとまで噂されましたが、その全貌は未だ謎のまま。ただ、ステルス戦略爆撃機を開発しているのは間違いなく、おそらく今後5年以内に登場すると思われます。
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