陸軍大国・韓国を支える主力戦車
日本の隣国・韓国といえば同じ民族の北朝鮮と38度線を挟んで対峙する分断国家ですが、この大きな地上兵力を持つ北朝鮮と地続きであることから実は陸軍大国としても有名です。北朝鮮軍の多くは博物館級の旧式装備を運用しているものの、一部の精鋭部隊は独自開発した戦車を有しており、120万人強の現役戦力も韓国にとっては大きな脅威と言えます。
日本と違っていきなり陸上侵攻で有事が始まる韓国は伝統的に陸軍中心であり、常備兵力だけで42万人と世界的に見ても陸軍大国なのです。さらに、朝鮮戦争で北朝鮮の機甲部隊に辛酸を嘗めさせられた韓国軍は戦車を中心とした機甲戦力の充実に熱心です。元々、朝鮮戦争以後もアメリカ製戦車を運用してきた韓国陸軍ですが、仮想敵国の北朝鮮がソ連製戦車の拡充を図るとより強力な国産戦車の開発を検討します。
そこで誕生したのが韓国初の国産戦車「K1」ですが、機動力や砲弾搭載数でいまひとつ出会ったことと、大量の旧式戦車を更新する時期が差し迫ったこともあって1990年代に新たな国産戦車の開発に着手します。こうした誕生したのが現在の韓国軍が誇る最新鋭の主力戦車「K2」です。
⚪︎基本性能:K2戦車
重 量 | 55t |
全 長 | 10m |
全 幅 | 3.6m |
全 高 | 2.5m |
乗 員 | 3名 |
速 度 | 時速70km |
行動距離 | 430km |
兵 装 | 120mm滑空砲×1 7.62mm機関銃×1 12.7mm重機関銃×1 |
価 格 | 1両あたり約9億円 |
「黒豹」「ブラックパンサー」の愛称で知られるK2戦車は、2014年から配備が開始されて現時点の調達数は260両ほど。打撃力を担う主砲は国産の120mm滑空砲を採用しており、自動装填装置を付けることで省人化も実現しています。
K2は通常の砲弾以外に真上から目標を狙える特殊な誘導砲弾を撃つことができ、戦車の弱点である上部を集中的に攻撃することが可能です。この誘導砲弾はドイツやイスラエルの企業と共同開発したもので、放たれた砲弾は目標付近に到達するとパラシュートが開いて各種センサーで目標の正確な位置を把握した後、トップアタックで撃破します。

攻撃の際に頼りになるのが射撃用レーダー、レーザー測定器、そして夜間も使える高解像の赤外線センサーであり、目標を捕捉した後も自動追尾するシステムが付いています。さらに、データリンクを通じた味方との連携が可能であり、GPSや敵味方識別装置なども用いて味方部隊の状況把握と優先目標の選定を行うそうです。
一方、防御力については複合装甲に加えて、被弾時に起爆して金属板を飛ばすことで敵弾の貫通を阻害する爆発反応装甲も搭載しています。旧ソ連戦車ではよく見かける爆発反応装甲ですが、爆風や破片を撒き散らして付近にいる味方歩兵も殺傷してしまうデメリットがあります。
しかし、旧式といえども多数の戦車を持つ北朝鮮軍との戦闘では本格的な戦車戦が想定されるため、あえて「対戦車」を優先させたと言えます。他にも自動消火装置やNBC兵器に対する防御機能が付与されており、煙幕や赤外線対策のフレアも放つことができます。
パワーパック問題と「欠陥戦車」疑惑
さて、K2戦車の話題になると必ず指摘されるのが動力を支えるパワーパックの欠陥であり、これをもって同戦車を軽んじる傾向がインターネット掲示板を中心に見受けられます。
まず、パワーパックとはエンジンと変速機が一体化したものですが、韓国がK2向けに開発した国産の変速機に問題があったことからK2が本来の加速性能を達成できなかったのは事実です。そのため、原因の調査と不具合の解消を進めると同時にドイツ製のパワーパックを導入して一時的にしのぎますが、その後も変速機の耐久性で問題が発覚するなど試練が続きました。
結局、現在配備されているK2はドイツ製のパワーパック、もしくは国産エンジンとドイツ製変速機を組み合わせた混合パワーパックを採用しており、大きな問題なく運用されています。しかし、パワーパックの自国開発を主張する「国産派」の圧力もあったことから、目標性能を引き下げながらも国産パワーパックの開発は続けられ、2021年には開発が完了したそうです。

では、この試行錯誤の末に登場した韓国産パワーパックはどうなのか?
実はトルコの主力戦車「アルタイ」の一部がこの韓国製パワーパックを採用しており、現在その実証実験が行われています。特に問題がなければ最大100両ほどのパワーパックが調達されるそうですが、これはシリア問題などで経済制裁を受けているトルコがドイツ製パワーパックなどを輸入できないことも大きな要因です。
結局、国産パワーパックの開発には成功したものの、目標の下方修正や新たな欠陥の発覚など韓国側の技術力が不足していたのは否めません。しかし、こうした開発の苦難は韓国に限ったことではなく、この過程で得られた経験と技術的教訓は今後の成長に繋がるでしょう。
このように確かにパワーパック問題はあったものの、ドイツ製を使うことで問題を一応クリアしており、何よりも重要なのは日本の10式戦車やアメリカのM1A2エイブラムス戦車のような3.5世代戦車としては十分な能力を有していること。パワーパック問題に拘泥して戦車全体としての実力を見くびってはなりません。
ポーランドの「爆買い」が示すK2への評価
K2戦車のことを開発時の試行錯誤を取り上げて「欠陥戦車」と呼ぶ風潮が散見されますが、世界的な評価は割と高く、3.5世代戦車としては世界各国の戦車に引けをとらないと見られています。
自国で作った「モノ」の海外評価を測る指標として輸出実績が挙げられますが、これは戦車を含む軍事装備品も同様であり、韓国のK2戦車にも当てはまります。例えば、前述のトルコの時期戦車「アルタイ」はK2そのものを参考にしており、韓国が事実上の共同開発相手なのです。
そして、K2戦車が一気に注目を集めたのが2022年に発表されたポーランドによる1,000両近い大量購入です。侵略で幾度か国が消滅した過去を持つポーランドは欧州の中でも軍事力強化に熱心ですが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてこの危機感はさらに高まっており、旧ソ連製戦車を多く運用している陸軍の近代化を急ピッチで進めています。
そのため、アメリカからM1エイブラムスを250両購入する予定ですが、全てを短期間で置き換えることは難しく、別のオプションも検討しました。そこで白羽の矢が立ったのが韓国のK2戦車であり、他にも同じ韓国製のK9自走榴弾砲とFA-50軽戦闘機をそれぞれ670両、50機購入するそうです。

まさに韓国製兵器の「爆買い」であり、韓国の軍事面における輸出実績を一気に押し上げる契約ですが、K2戦車に関してはまずは180両をそのまま購入し、残りの800両近くについてはポーランド向けの「K2PL」を共同開発し、うち500両をポーランドでライセンス生産します。
このように開発した韓国よりも多い数のK2を運用する予定のポーランドですが、欧州勢で最も危機感が強く、陸軍力の増強に熱心な国がK2を1,000両近く採用した意義は大きいでしょう。ウクライナ支援にも力を入れるポーランドは今では対露強硬派としても、中東欧のリーダー格としても存在感を増しており、積極的な軍備増強によってNATOの中でも「頼れる」軍事大国に変貌しつつあります。
そんなポーランドが採用かつ大量購入するK2戦車の評価は欧州内では上がると推測され、同じく旧ソ連製戦車を運用している中東欧各国がこれに続く可能性すらあります。韓国にとってはこの契約を突破口にして中東欧に自国戦車を売り込むチャンスであり、実際にK2を運用するポーランドの評価がカギを握ると言えます。
10式戦車と比較した場合どうなのか?
ここでよく見かける疑問が日本の最新鋭「10式戦車」との比較です。
そもそも、陸続きの北朝鮮との全面衝突を想定した韓国軍と離島防衛を重視する自衛隊では運用思想が少し異なりますが、あえて比較した場合は以下のような表となります。
10式戦車 | K2戦車 | |
重 量 | 44t | 55t |
全 長 | 9.4m | 10m |
全 幅 | 3.2m | 3.6m |
全 高 | 2.3m | 2.5m |
乗 員 | 3名 | 3名 |
速 度 | 時速70km | 時速70km |
行動距離 | 300km | 430km |
潜水可能深度 (渡河能力) | 最大2m | 最大4.1m |
兵 装 | 120mm滑空砲×1 7.62mm機関銃×1 12.7mm重機関銃×1 | 120mm滑空砲×1 7.62mm機関銃×1 12.7mm重機関銃×1 |
価 格 | 9.5億円 | 9億円 |
こうして見ると割と似ている両者ですが、軽量化を重視た10式戦車は多くの橋梁を渡ることができ、離島防衛を見据えてC-2輸送機での空輸が可能です。一方、K2戦車の方が渡河能力は高く、このあたりは運用思想の違いが現れた結果でしょう。攻撃力はさほど変わらないと推測されますが、防御力については10式戦車の複合装甲に軍配が上がると言われています。

機動力についてはエンジン出力はK2戦車の方が上であるものの、既述のパワーパック問題もあったことから加速性能などの俊敏さでは10式戦車に劣ります。軽量化を重視した10式戦車は加速ダッシュと高速で動き回りながらの射撃が得意であり、小回りの効く戦車としても有名です。したがって、10式戦車の方が機動力では優位と評価することができます。
あとは射撃システムやC4I能力などの「中身」が勝敗を分けますが、このあたりは公表されている情報が当然少なく何とも言えません。むろん、日本の技術力には期待できますが、だからと言って韓国の技術力が低いわけではなく、決して侮ってはなりません。かつて世界を席巻したソニーやパナソニックに代わってサムスン製品が世界中で見られるように、韓国の技術力もこの20年で大きく成長したのです。K2戦車もその一例と言えるでしょう。
⚪︎関連記事:売れまくり?韓国のK9自走榴弾砲
コメント