パワーパック問題を克服
さて、K2戦車の話になると必ず出てくるのが「欠陥」という評価です。
具体的には動力を支えるパワーパックの欠陥問題のことで、これをもってK2戦車を軽んじる傾向があります。
まず、パワーパックとはエンジンと変速機を一体化させたものですが、韓国がK2戦車向けに開発した変速機に問題があったのは事実です。この不具合のせいでK2戦車が本来の加速性能を達成できなかったのも確認されています。
こうした事態を受けて韓国側は原因調査と問題解決を進めつつ、ドイツ製パワーパックを導入して一時的に難局をしのぎました。
その後も耐久性に関して新たな問題が発覚するなど、国産変速機を巡る試練が続き、最終的にはドイツ製パワーパック、または国産エンジンとドイツ製変速機を組み合わせたものに全て切り替えました。
このように思い切ってドイツ製に移行した結果、欠陥問題を乗り越えたのみならず、整備性もよくなって信頼性が増しました。
ただし、パワーパックの自国開発を推す「国産派」の圧力もあったため、目標性能を引き下げながらも開発はつづけられ、2021年には完了したそうです。
では、この試行錯誤の末につくられた韓国産パワーパックはどうなのか?
実はトルコの主力戦車「アルタイ」のうち、一部車両がこの韓国製パワーパックを導入して、実証実験が行われました。
特に問題がなければ、最大100両分のパワーパックが調達される見込みですが、なぜトルコなのか?
これはシリア問題などを巡って経済制裁を受けているトルコがドイツ製をを輸入できないのが主な理由です。
結局のところ、韓国はパワーパック開発で一定の成功を収めたものの、目標の下方修正やそもそもの欠陥発覚など技術力不足は否めませんでした。
しかし、こうした技術開発の苦難は韓国に限ったことではなく、この過程で得られた経験や教訓は今後につながるはず。
パワーパック問題があったのは事実ですが、その後はドイツ製の導入などで問題はクリアしており、いまでは有力な3.5世代戦車としては日本の10式戦車 とともに並んでいます。
開発段階で起きた問題ばかりにとらわれていては、戦車全体としての実力を見くびることになります。
ポーランドによる爆買い
現在のK2戦車は世界的な評価も高く、最近では韓国の兵器輸出における目玉商品のひとつになりました。
例えば、前述のトルコ戦車「アルタイ」はK2戦車を参考につくられ、韓国が事実上の共同開発パートナーです。
そして、K2戦車が世界の注目を集めたのがポーランドによる約1,000両もの「爆買い」。
ロシア=ウクライナ戦争を受けて陸軍の近代化を急ぐポーランドは、アメリカからM1エイブラムスを250両ほど購入したものの、いま使っている旧ソ連戦車を全て更新するのには数が足りません。
そこで、別オプションとして白羽の矢が立ったのが韓国製のK2戦車です。
しかも、ポーランドはこのK2戦車×1,000両の注文に加えて、同じ韓国製のK9自走榴弾砲とFA-50軽戦闘機もそれぞれ670両、50機を購入しました。
まさに韓国兵器の「爆買い」ですが、まずは180両のK2戦車をそのまま購入したあと、残りの約800両はポーランド向けの「K2PL」として共同開発します。
欧州勢のなかで最も危機感が強く、陸軍増強に注力するポーランドがK2戦車を採用した意義は極めて大きなものです。
ウクライナ支援にも熱心なポーランドは、いまや中・東欧のリーダー格として存在感を増しており、軍備増強を通してNATO同盟でも「頼れる」大国になりつつあります。
そんなポーランドがK2戦車を大量購入した事実は、同戦車の評価を上げるのみならず、さらなる輸出先開拓に弾みをつけました。
では、なぜポーランドはK2戦車を選んだのか?
これはK2戦車があらゆる点で「ちょうど良かった」から。
高性能兵器を買うときは、性能・価格面での優劣はもちろんのこと、仮想敵になりそうな相手からは当然買えません。この点、同じ西側陣営の韓国はパートナーとしては十分なうえ、議会承認がめんどうなアメリカよりも買いやすいのが利点です。
さらに、K2戦車は本国仕様と輸出版で性能の開きがなく、売込みに熱心な韓国側はほかよりも早い納期と優れたアフターサポート(整備点検・改修)を提示しました。
つまり、K2戦車は西側標準の性能を持ちながら、導入と運用、改修面での柔軟性は他国を圧倒していたわけです。こうしたカスタマーサービスのよさは、K2戦車以外の韓国兵器にも共通していて、買って使う側からすれば魅力的でしょう。
コメント