空輸できる牽引式榴弾砲
各種の高性能兵器が登場した現代においても、敵に対して砲弾を撃ち込み、味方を支援する榴弾砲の重要性は変わらず、軍事分野で最先端をゆくアメリカも一見古めかしい牽引式のものを使い続けています。
今回はイラクやアフガニスタンでの対テロ戦にも投入された米軍の牽引式榴弾砲「M777」について見ていきましょう。
⚪︎基本性能:M777 155mm榴弾砲
重 量 | 4.2t |
全 長 | 9.5 m(牽引時) 10.7 m(射撃時) |
全 幅 | 3.3m |
要 員 | 5名 |
射 程 | 24km (射程延伸弾は40km) |
発射速度 | 最大毎分7発 |
価 格 | 1門あたり約9,000万円 |
M777はもともとイギリスで開発されたもので、アメリカではM198榴弾砲の後継として2005年に導入されました。性能面ではそこまで進化していませんが、チタン合金を多用したことで40%以上の軽量化に成功しました。
これは他の牽引式榴弾砲の約5〜6割の重さであり、「V-22オスプレイ」などの中型輸送機でも吊り下げられるほどです。
こうした軽量化は陣地転換の時間短縮にもつながり、反撃を避けるうえで欠かせない機動展開力を高めました。つまり、空輸性のおかげで牽引式ながらもそれなりの機動力を確保した形です。
さて、M777はそれまでの牽引式榴弾砲と同様に射撃準備と発射作業を人力で行いますが、射程距離や命中精度については「エクスカリバー」などのGPS誘導弾を使えば、最大40km先の目標を2m以内の誤差で攻撃可能です。
ただし、実際には米陸軍がイラクで30km先の目標に命中させたのが最長記録といわれています。
それでも、ミサイルよりはるかに安上がりな砲弾を正確に撃ち込めるオプションは費用対効果の観点や「量」が求められる消耗戦では魅力的です。例えば、通常弾の最安値は1発あたり10万円とも言われていて、1,000万円は超えるミサイルと比べて明らかなコスト差があります。
同じ砲弾を放つという意味では、独立運用ができる自走砲という選択肢があるものの、コストや整備面ではM777のような牽引式火砲の方が圧倒的に有利です。
ウクライナでの再注目
M777はイラクやアフガニスタンで多く運用された実績を持っていますが、特に山岳地帯が多い後者ではヘリで空輸しやすい利点が発揮されました。そして、タリバンやイスラム国のような対テロ戦では、わざわざ高性能なミサイルを用いるまでもなく、コスト面で優れたM777の方が適任でした。
そんなM777榴弾砲は2022年のロシア=ウクライナ戦争において、砲兵戦力で劣るウクライナへの支援兵器として再び注目を集めています。
平原が広がる東部ドンバス地域で砲兵戦が繰り広げられるなか、ウクライナの要請に応える形でアメリカ、オーストラリア、カナダが保有する150門以上のM777榴弾砲がエクスカリバー弾を含む20万発以上の弾薬とともに送られました。
そして、戦場に到着したM777榴弾砲は、ドローンの弾着観測を使いながらロシア軍の陣地や装甲車両に対して精密攻撃を加えてきました。
HIMARS高機動ロケット砲とともに、激化する砲兵戦でウクライナ側を支えてきた一方、自爆ドローンなどの攻撃で50門以上が失われました。
輸送ヘリが足りないウクライナにとって、M777の空中機動展開はほとんど望めず、本来の長所が活かされていません。
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