旧式だが、今でも陸自の主力火砲
古くから戦場では欠かせない火砲ですが、ミサイルや航空機が登場した現代においてもその重要度は変わりません。むしろ、現在行われているロシアによるウクライナ侵攻(露宇戦争)ではドローンによる偵察及び着弾観測を取り入れた砲兵戦が行われており、火砲の重要性が改めて認識されています。
特にウクライナ東部での戦闘においては、砲兵戦が勝敗のカギを握るとされていることから、西側諸国は榴弾砲を供与するなど、ウクライナ軍の砲兵戦力の増強に努めており、砲兵が果たす役割が再び着目されているのが現状です。
このように火砲の重要性が世界中で再認識されているわけですが、我が国の場合はどうでしょうか。
陸上自衛隊も従来から火砲を重視しており、その充実ぶりは他国に引けを取るものではありません。そして、その砲兵戦力の中で主力ポジションを占めているのが「155mm榴弾砲 FH70」と呼ばれる装備です。
⚪︎基本性能:155mm榴弾砲 FH70
全 長 | 9.8m (牽引時) 12.4m (射撃時) |
全 幅 | 2.56m (牽引時) |
全 高 | 2.56m (牽引時) |
重 量 | 7.8〜9.6t |
自走速度 | 時速20km |
要 員 | 8名 |
射 程 | 最大24km ※ロケット補助推進弾は30km |
発射速度 | 最大毎分6発 |
価 格 | 1門あたり約3.5億円 |
FH70はドイツ、イギリス、イタリアが1970年代に開発した榴弾砲であり、陸自では1983年から導入が開始されました。開発国を含めて10カ国で採用された実績を持ちますが、実は最も多く調達したのが日本の陸自であり、その数は他国を圧倒する420門以上です。現在でも300門以上が現役と見られており、保有数2位のイタリア(約160門)の倍近い数字となっています。
このように、開発元よりも多くの調達数となったFH70ですが、全国の特科部隊に配備されたため、各駐屯地の式典や訓練展示で見かける機会が多く、一般人にも割と馴染みのある砲と言えるでしょう。

さて、そんなFH70の性能ですが、砲弾を装填するトレイと半自動式装填補助装置を使うことで当時としてはかなり早い装填と連続射撃を実現しました。また、基本的には牽引される前提ですが、エンジンを搭載しているので20km程度の距離ならば時速15〜20kmで自走できます。したがって、通常は陣地付近までトラックなどの車両に牽引された後、最後に自走して陣地に配置するようです。
射撃に必要な各種測定や照準は人力で行うため、正確な射撃を実施するには相当な訓練と技量が必要であり、ある意味「職人技」に頼っている点が多い砲だと言えます。ただ、陸自はFH70を長いこと使用しているため、扱い慣れているベテランが多く、経験に基づく「勘」や熟練の技によって素早い準備と精密な射撃を実現できているのも事実です。
老朽化に伴う退役と後継砲
長年にわたって陸自の主力火砲を務めているFH70ですが、開発から既に半世紀が過ぎており、開発国のドイツやイギリスでは退役済みです。陸自でも導入を始めてから40年が経つため、古いものから退役が進められており、後継として19式装輪自走155mm榴弾砲が配備される予定です。
ただ、FH70は配備数が多く、19式装輪自走155mm榴弾砲も一気に調達できないため、しばらくは各地でFH70が現役を続ける見込みです。むろん、これには予算の制約が大いに関係していますが、同時に人員ポストの問題も絡んでいます。
FH70の後継砲は要員が3名減の5名となっており、陸自全体では火砲の定数そのものが削減されるので砲兵たる特科部隊も必然的に縮小されます。したがって、定数削減に合わせながらFH70を一気に更新した場合、新しい砲兵ポストからあぶれる人員が続出するでしょう。つまり、陸自の特科部隊だけでも巨大な組織なので、何事も段階的に進めないといけない事情があるのです。
未だにFH70の保有数でダントツ1位の陸自ですが、上記のような事情に加えて、露宇戦争で改めて火砲の重要性が取り上げられているため、FH70が完全に姿を消すまでしばらくかかるでしょう。
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