駆けつけ火力の装甲戦闘車
南北に細長い国土を守るイタリア陸軍は、北部に国産のアリエテ戦車を中心とした装甲部隊を配備しつつ、南部の守りは機動力の高い軽装甲部隊に任せています。
もし、南部に敵が上陸したら北部の主力部隊が来るまで時間稼ぎするわけですが、このとき高速道路や国道を使って真っ先に駆けつけて、遅滞戦闘を支援するのが「B1 チェンタウロ戦闘偵察車」です。
⚪︎基本性能:B1 チェンタウロ戦闘偵察車
重 量 | 26t |
全 長 | 7.4m(車体のみ) |
全 幅 | 3.05m |
全 高 | 2.73m |
乗 員 | 4名 |
速 度 | 時速108km |
行動距離 | 約800km |
兵 装 | 105mmライフル砲×1(弾薬40発分) 7.62mm機関銃×2(弾薬4,000発分) |
価 格 | 1両あたり約2.5億円 |
火力支援における「救急車」ともいえるチェンタウロは、戦車と歩兵戦闘車の間に位置する装輪戦車のような存在で、その見た目と役割はフランスのAMX-10RCに似ています。
この中間的な位置付けは名前にも表れていて、チェンタウロとはギリシア神話に出てくる上半身が人間、下半身が馬の種族「ケンタウロス」のことです。
まず、目を引くのが主武装の105mmライフル砲ですが、これは上陸した敵の橋頭堡や陣地を攻撃するには十分な威力を持つうえ、貫通力の高い対戦車砲弾を含む各種のNATO標準弾に対応しています。
また、レーザー測距機や赤外線暗視装置のように目標を捉えるのに必要な機能はひと通りそろっていて、射撃管制装置はアリエテ戦車と同じものを採用しました。
射撃するチェンタウロ(出典:イタリア軍)
一方、機動性を優先した代償として基本装甲は薄く、全体としては12.7mm〜14.5mm弾の重機関銃、正面装甲は25mm弾に耐えられるかどうかのレベルです。これは戦車と比べて物足りず、実戦ではウクライナに供与されたAMX-10RCと同様に至近弾の破片でさえ貫通してしまう可能性があります。
その後、海外派遣向けの増加装甲が開発されたものの、根本的解決にはなっておらず、あくまで機動火力の役割を果たせる反面、本格的な交戦下での防御力は期待できません。
それでも、空気清浄機を中心としたNBC防護機能(放射能・生物・化学)、煙幕展開機、レーザー警報装置を備えているので「装甲車」としてはそれなりの防御力を有します。
この装甲の薄さは反対にチェンタウロの高機動力をもたらし、重量25トンでありながら、舗装道路で最高時速108kmという快速ぶりを実現しました。もちろん、これには8つの全輪駆動式タイヤと高性能な油圧式サスペンションが大きく寄与していて、低燃費のエンジンは舗装道路を使えば最大800kmまで行動範囲を伸ばせます。
また、不整地ではタイヤの空気圧を車内からの調整で下げられるなど、舗装路での運用を基本としながらも、不整地も意識した設計になっています。
ほかにも、一部車両では弾薬搭載用のスペースに最大4名を収容できるので、弾薬消費後に味方を乗せる「片道の歩兵戦闘車」みたいな使い方も可能です。
持ち前の機動力を発揮するチェンタウロ(出典:イタリア軍)
まとめると、チェンタウロは火力的には現代戦車が用いる120mm砲には及ばないものの、軽戦車としては申し分ないレベルです。しかし、防御力の弱さから敵戦車どころか、歩兵戦闘車とも撃ち合うのが難しく、奇襲や一撃離脱など機動力を生かした「すばしこい」火力支援が基本になります。
弱点克服を狙ったチェンタウロ2
南部方面の即応増援として期待されたチェンタウロは、1991年から部隊配備が始まり、現在までに400両近くが生産されました。
本国イタリアでは260両ほどが配備されたほか、外国ではヨルダン、スペイン、オマーンが運用しています。ちなみに、イタリア軍の車両はソマリアの国連治安維持活動とイラク戦争にも投入されて、小規模戦闘も行いました。
生産過程ではさまざまな派生型が登場していて、例えば、155mm榴弾砲を載せた自走砲型、対空砲を搭載した自走対空砲型、指揮通信型、回収車型などがあります。
こうしたなか、新たに120mm滑腔砲を搭載して、防御力強化を図った「チェンタウロ2」が後継として開発されました。
こちらは再設計・刷新されたもので、モジュール装甲と高強度鉄鋼で従来の脆弱性を克服しつつ、車体底部をV字型にすることで地雷や即席爆弾(IED)に対する抗堪性を高めました。
後継として登場した「チェンタウロ2」(出典:イタリア軍)
こうした防御力強化にかかわらず、持ち前の機動力は砲塔の軽量化、新型エンジン・変速機への換装でなんとか維持しました。それは従来とほぼ変わらない最高時速105kmを確保するなど、すばやく駆けつけるには全く不足していません。
さらに、チェンタウロ2は自動装填装置で乗員を3名に減らした一方、最新の電子光学装置や照準システム、指揮通信システムを使った高い射撃精度と連携能力が期待されています。
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