対戦車も想定した装輪の偵察戦闘車
ロシア=ウクライナ戦争では西側諸国の武器支援を受けたウクライナが勇戦を続けており、特に初戦でロシア戦車を多数撃破したジャベリン対戦車ミサイルやロシア軍の弾薬庫を吹き飛ばすHIMARS高機動ロケット砲の活躍がメディアの注目を集めました。しかし、武器支援では欧州勢も負けておらず、ドイツとともにEUを率いるフランスは一足先に「軽戦車」と評される「AMX-10RC」の提供に踏み切ったほどです。
⚪︎基本性能:AMX-10RC
重 量 | 17.4t |
全 長 | 9.13m |
全 幅 | 2.95m |
全 高 | 2.6m |
乗 員 | 4名 |
速 度 | 最高時速85km |
行動距離 | 約800km |
兵 装 | 105mmライフル砲×1 7.62mm機関銃×1 12.7mm機関銃×1 |
AMX-10RCはタイヤ式の偵察戦闘車でありながら対戦車戦を想定した105mmライフル砲を搭載しているのが特徴です。そのため、軽戦車と呼ばれることが多く、陸上自衛隊の16式機動戦闘車に近いかもしれません。主砲の105mmライフル砲はNATOが仮想敵と定めるソ連(ロシア)戦車を撃破する威力を有しており、近代化改修によって射撃管制装置なども新しいものに更新されました。
一方、防御力は当然ながら戦車より弱く、むしろ全体的にアルミ合金を使用することで軽量化を優先した形となっています。ただ、現在配備されている車両は初期型と比べて追加装甲や赤外線妨害装置、NBC兵器に対する防護能力が付与されているので防御力は大幅に強化されました。

さて、軽量かつタイヤ式という長所によってAMX-10RCは優れた機動力を持つものの、変速機を含めたいわゆる「足回り」が複雑なのが欠点といえます。しかも、初期型はウォータージェット推進も搭載して水上航行を可能としていたので機関部などが余計に複雑でした。こうした複雑な構造は単価を押し上げる結果となり、調達および輸出面ではあまり成功しませんでした。現在もフランス軍で約240両が運用されていますが、それ以外ではモロッコとカタール、カメルーンで使われています。
ある意味、フランスの主力戦車ルクレールと同様の理由で輸出が振るわなかったAMX-10RCですが、実戦経験に関しては湾岸戦争やアフガニスタン戦争、マリでの軍事作戦に投入されてきました。特にフランスは元・宗主国という立場からアフリカに軍事介入することがしばしば求められ、その際に機動力と打撃力に優れたAMX-10RCが用いられることが多いようです。
そんなAMX-10RCも登場から約40年が経過しており、後継のジャグア装甲偵察戦闘車への更新が進められている最中です。徐々に退役が見込まれるなかで発生したロシア=ウクライナ戦争では、フランスはAMX-10RCを提供することで他国よりさらに一歩踏み込んだ姿勢を示しました。フランスは今までもカエサル自走榴弾砲などを提供してきましたが、軽戦車といえるAMX-10RCの差し出しは西側戦車を要望してきたウクライナにとって大きな前進であり、その後のイギリス、アメリカ、ドイツによる戦車供与の流れを作りました。つまり、西側戦車の供与の前に立ちはだかった大きな壁に風穴を開けたのがAMX-10RCの提供なのです。
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